第33話 魔人美少年と始めたサプライズ街頭劇に、お忍びの姫君が乱入してきました

 そこで、イフリエが突然、私の手を取った。

「探しましたぞ、姫君」

「人違いでございましょう」

 調子を合わせて、するすると逃げてみせる。

 芝居だと気付いたのか、ひとり、ふたりと立ち止まりはじめる。

 フードで顔を隠した私たちは今、謎の大道芸人となっていた。


「待ちな……か弱い娘さんをかどわかそうとは不届き千万」

 乱入してきたのは、やはりフード付きマントを羽織った若者だった。

 するすると歩み寄って、囁きかけてくる。

「お帰りなさいませ」

 女王タウゼンテの声だと気付いたとき、イフリエが私たちの間に割って入った。

「邪魔だてすると……」

 言ったそばから、タウゼンテに薙ぎ倒されて皮肉を浴びせられる。

「おっと失礼……お引き取りあれ、お客様と」


 だが、観客は帰ろうとしない。

 仕方なく、イフリエは立ち上がった。

「景気がいいようだな、用心棒」

 勝手な設定に、タウゼンテが応じる。

「さっぱりよ、狼どもの群れに親玉がいるって噂が立ってな」

 拳のひと振りで、イフリエは倒れてみせる。

 私がタウゼンテにすがりつくと、芝居っ気たっぷりに慰められた。

「怖がりなさんな、顔も姿も分からない奴を」

 人だかりの中から、歓声が上がる。


 だが、それは狼の遠吠えに似た狂気の叫びにかき消された

 たちまちのうちに、手に手に剣を持った平服の男たちが駆け込んでくる。

「ここか!」

 タウゼンテが、逃げる先へ目を遣って私たちを促す。

「プリースターの手の者です……今のうちに」 

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