第25話 迫害されないだけマシな世界で魔人美少年と暮らそうとしましたが、きっぱり断られました。(ふられたわけではありません)

 イフリエは、あのノームを知っていた。

「この世界に来ると、あそこで直してもらってた」

 いろんな世界から来た、ああいう人たちはたくさんいるらしい。

 異世界ならではの技を巧みに生かせば、怪しまれないで暮らしていけるのだろう。

 カメラを抱えた社長に言われるまま、房になった金髪と黒髪の混じりっ毛を揺らしながらポーズを取って……。

「本当に身体で返すの?」

 写真撮影が終わった後に聞いてみると、社長が口を挟んできた。

「まずはお前だ、麻美」

 肩代わりしてもらった、2トン車のレッカー代は返さなくてはならない。


 送り込まれたのは、あの母校の演劇部だった。

 放課後の学校に足を踏み入れると、ジャージ姿の女子から黄色い歓声が上がる。

「こんなに部員いたっけ?」

 数日で女子部員が増加したのは、イフリエあってのことだ。

「はい、みんな横になって!」

 動機は不純だったが、ゆっくりと息を吸ったり吐いたり、横に転がったりさせているうちに、男子たちも気持ちよさげに顔を緩めていた。

 いつもは冷たい表情しか見せないイフリエまでもが、身体を起こすと寝ぼけ眼になっている。

 それを見て、女子部員たちはまた陶然となるが、面白くないのは男子部員たちばかりではない。

「目、覚まして」

 頬を平手打ちされて、イフリエは口を尖らせる。

 事務所に戻ると、通話の澄んだ固定電話の子機を片手に、社長はほくほく顔で出迎えた。

「また来いってよ」

「もう行きません」

 私が不愛想に答えてみせると、社長は一枚の紙きれをつきつけた。

「じゃあ、お前が鍛えろ」

 それは、2.5次元舞台の書類選考を通過したことを告げる合格通知だった。


 実技を伴う2次試験は、1週間後だ。

「私は、いいよ……このままこの世界にいても」

 遠回しに気持ちを告げたのがよくなかったのか、イフリエには、きっぱりと告げられてしまった。

「あの世界に帰る」

 帰っても、人の生き血をすする魔神に目をつけられた国で、ダンピールとして危険人物扱いされるだけだ。

「ここなら、ダンピールだって生きていけないことはないよ……あんな事務所だけど」

 だが、イフリエは断固として言い張るのだった。

「あの魔神と戦う……ダンピールとして」

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