第15話 人狼を撃退した美少年は、呪われた宿命を背負っていました
このリニシュテ王国に古くから伝わる伝説に、「呪われ御子の武勲」がある。
魔神と人の間に生まれた子が魔族に挑む英雄譚だ。
これを脚色して上演するのが、私たち異世界劇団の請け負った仕だった。
この、女王タウゼンテ自らがスポンサーとなった企画をプロデュースしたのが、プリースターである。
その目の前で、座長のホーソンは無駄に熱くなっていた。
「遅いんだよ出が」
ラスボスである魔神を演じるにあたって、主役の呪われ御子を任せたイフリエをやたらと急きたてるが、登場までの間を縮めると、出るタイミングやセリフをトチる。
「早すぎるんだよ」
そこでまた、若いイフリエを責め立てる横柄さに私もカチンときたが、あからさまに異を唱えない。
「私がやってみます」
理屈よりも行動。
地下アイドル時代に身に付けた知恵だった。
イフリエから稽古用の木剣やマントを借りて、稽古場の中央に駆け込んでみる。
センターで魔王と御子が鉢合わせしなければならないのだが、どうしてもホーソンが待つことになる。
「遅いんだよ出が」
怒りだすホーソンに、舞台の下から見ていたルイレムさんは、よせばいいのに率直なダメ出しをする。
「団長が早いんでは」
ホーソンは鋭い犬歯を剥いて、稽古場の向こうに下がっていく。
「ならちょっと遅く出てやるよ」
違う……ここは、お互いに相手の呼吸を読むところだ。
だが、ステージパフォーマンスを現場で経験してきた私はともかく、大雑把な筋立ての小芝居しか知らないホーソンには無理な芸当だった。
結局、絶対に間の合わない稽古と、不毛な議論が延々と繰り返されることになる。
「早すぎるんだよ」
「団長が遅すぎるんでは?」
やがて、手を高らかに打ち合わせる音が、稽古場の空気を鋭く切り裂いた。
稽古場の隅に立っていたプリースターが、演出でもないのに稽古を止めたのだった。
その足元で床の上に伏した細い身体を、明かり取りの窓から差し込んできた陽の光が、まるでスポットライトのように照らし出している。
私は思わず駆け寄った。
「イフリエ君!」
壁際で稽古を見ているうちに、気を失って倒れたらしい。
ルイレムさんに手や足を撫でられて、うっすらと目を開けるイフリエを見下ろしていたプリースターは坊主のくせに、気に掛ける様子もない。
ただ、眉を潜めて尋ねただけだった。
「陽の光に弱いとは……吸血鬼との混血児、ダンピールだな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます