第20話 人狼を撃退した美少年は、呪われた宿命を背負っていました

 このリニシュテ王国に古くから伝わる伝説に、「呪われ御子の武勲」がある。

 魔神と人の間に生まれた子が魔族に挑む英雄譚だ。

 これを脚色して上演するのが、私たち異世界劇団の請け負った仕だった。

 この、女王タウゼンテ自らがスポンサーとなった企画をプロデュースしたのが、プリースターである。

 その目の前で、座長のホーソンは無駄に熱くなっていた。

「遅いんだよ出が」

 ラスボスである魔神を演じるにあたって、主役の呪われ御子を任せたイフリエをやたらと急きたてるが、登場までの間を縮めると、出るタイミングやセリフをトチる。

「早すぎるんだよ」

 そこでまた、若いイフリエを責め立てる横柄さに私もカチンときたが、あからさまに異を唱えない。

「私がやってみます」

 理屈よりも行動。

 地下アイドル時代に身に付けた知恵だった。

 イフリエから稽古用の木剣やマントを借りて、稽古場の中央に駆け込んでみる。

 センターで魔王と御子が鉢合わせしなければならないのだが、どうしてもホーソンが待つことになる。

「遅いんだよ出が」 

 怒りだすホーソンに、舞台の下から見ていたルイレムさんは、よせばいいのに率直なダメ出しをする。

「団長が早いんでは」

 ホーソンは鋭い犬歯を剥いて、稽古場の向こうに下がっていく。

「ならちょっと遅く出てやるよ」

 違う……ここは、お互いに相手の呼吸を読むところだ。

 だが、ステージパフォーマンスを現場で経験してきた私はともかく、大雑把な筋立ての小芝居しか知らないホーソンには無理な芸当だった。

 結局、絶対に間の合わない稽古と、不毛な議論が延々と繰り返されることになる。

「早すぎるんだよ」

「団長が遅すぎるんでは?」

 やがて、手を高らかに打ち合わせる音が、稽古場の空気を鋭く切り裂いた。

 稽古場の隅に立っていたプリースターが、演出でもないのに稽古を止めたのだった。

 その足元で床の上に伏した細い身体を、明かり取りの窓から差し込んできた陽の光が、まるでスポットライトのように照らし出している。

 私は思わず駆け寄った。

「イフリエ君!」

 壁際で稽古を見ているうちに、気を失って倒れたらしい。

 ルイレムさんに手や足を撫でられて、うっすらと目を開けるイフリエを見下ろしていたプリースターは坊主のくせに、気に掛ける様子もない。

 ただ、眉を潜めて尋ねただけだった。

「陽の光に弱いとは……吸血鬼との混血児、ダンピールだな?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る