第19話 スポンサー様の監視のもとで、無学なボスがテンション上げるパワハラまがいのヘボ演出にドン引きします


 女王様直々のオファーのせいか、ホーソンのテンションは妙に上がっていた。

「イフリエ、次のシーンのセリフ入れてきたか?」

 女王タウゼンテの出資で宿屋の中に稽古場まで確保してもらっただけではない。

「そこじゃねえ、ここに立つんだよ」

 地下アイドルをやっていた頃にもいたヘボなディレクターぶりに、ルイレムさんも私のすぐそばでぼやいた。

「台本なんて書いたこともないくせに」

 エルフの世界に劇文学があるのなら、読んでみたいという気はする。

 オーディションで受けた付け焼刃の講習だけでも、そんなことを感じさせる効果はあった。

 もっとも、ホーソンはホーソンで、その場その場で考えた台詞を「口立て」でイフリエに覚えさせている。

「ほら、言ってみろ!」

 その大きな進歩は、ルイレムさんも認めるところだ。

「読み書きができない割にはね」

 だから即興に近いドタバタ喜劇をやってきたのだが、今度ばかりは違う。

 稽古場の奥で、私たちのやっていることをじっと見つめている黒衣の若者がいた。

 女王タウゼンテの側近、司祭のプリースターだ。

 私たちへの依頼にあたって、この出し物を提案してきたのだった。

 元の世界だったら、公演パンフレットに「原案」として名前を載せなければならないところだ。

 こういうのがいると稽古場が息苦しくていけないが、仕方がない。

「スポンサー様にゃ逆らえない」

 ため息交じりのぼやきは、もちろん、ルイレムさんには分からない。

 首をかしげたのをどう誤解したのか、プリースターは穏やかに微笑しながら恭しく頭を下げた。

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