第12話 魔王のいる世界で歌ってモブの人狼化を解きましたが、美少年も巨乳エルフも冷たいものでした

 イフリエを助けられるかもしれない、と思い当たった。

 恐怖に震える声で、私は歌いだす。

 

 怒って……ないよね?

 だって、信じてるから、キミは優しいって


 狼の顔が、次第に人へと戻っていく。

 アイドルとして磨いた、精一杯の甘ったるいアニメ声で、私は歌い続けた。


 甘えてるって、分かってる

 言ってることは、たいていワガママだから

 笑って許して、たまに叱ってくれるキミ

 ずっとそばにいてね


 気が付くと、宿屋の裏に呆然と立ち尽くしているのは、普通の男たちだった。

 イフリエが、まだ尻餅をついている私の足元へと後ずさる。

 足音もなく歩み寄って来るのは、ルイレムさんだ。

 その背中に挟まれて、私はようやく立ち上がることができた。

「大丈夫?」

 少年とエルフの声が、異口同音に尋ねる。

 ええ、としか答えることができなかったのは、新たな人影が、どやどやとなだれ込んできたからだ。

 鉄帽子をかぶって胸当てや脛当てを身に着け、腰に剣を提げた男たちは、この国の兵士か何かだろう。

 何が起こったのか未だに分からないといった顔の男たちをひとりずつ、腕をねじ上げては縛り上げていく。

 やがて、我に返った抗議の声が上がりはじめた。

「おい、何するんだ!」

「俺たちゃ何にも知らない!」

「何があったか、こっちが知りたいよ!」

 兵士たちは兵士で、負けてはいない。

「黙れケダモノが!」

「シラを切ってもムダだ!」

「人の生き血をすする魔神の手先め!」

 おぼろげながら、話が見えてきた。

 どうやら、この人狼たちはもともと、善良に暮らしている普通の人間だったらしい。

 それが、魔王とやらに操られて、私たちを襲ってきたのだ。

 やってきた兵士たちがさほど驚いていないのを見ると、こんなことが頻発しているのだろう。

 泣き言を垂れる男たちを手慣れた様子でひきずっていく様子を、私はただ見守るしかない。

「あの、怪我とかそういうのはありませんので……」

 それでも口をついて出た言葉を、さっきとは別人のようなイフリエが遮る。

「やめなよ。下手にかばったら、仲間だと思われる」

 ルイレムさんはルイレムさんで、やはり冷淡なものだった。

「ここでの興業の条件、覚えてる?」

 確か、この3つだった。


 1、国の安全・平穏・秩序・良俗に背かないこと

 2、女王の名誉を傷つけないこと

 3、定められた税金を納めること


 カネさえ払って、あとは女王陛下のおっしゃるがままにしていれば済むということだ。

 でも、やはり放っては置けなかった。

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