第10話 大入り満員の勢いで出待ちのファンにも期待しましたが、巨乳のエルフにも謎の女の子にも止められました

 やがて日が暮れる頃になると、私たちの舞台も終わっていた。

 ホーソンは上機嫌だった。

 宿屋の前のステージあたりに私たちを集めると、隠し持っていた革袋を開いてみせた。

「見ろ見ろ見ろ! 久々の大入りだ!」

 そこには、生まれて初めて見る金貨というやつが唸りを上げていた。

 ホーソンが、興奮気味の声を抑えながら息を漏らす。

「これで今夜は……」

 景気づけに宿屋の酒場で一杯、とでも言いだすかと思ったが、ホーソンに限ってそんなことはない。

「気持ちよく寝られるな」

 こういうヤツだ。

 稼いだら気持ちよくパーッと打ち上げなんかやって、次の日のために勢いをつけるなんていう発想はない。

 だから私たちは、宿屋の炊事場を借りてわびしい夕食を取った後、再び納屋の中で眠ることになった。

 ルイレムさんと外へ出ると、外はもう真っ暗だった。

 月明かりを頼りに納屋へと向かおうとすると、戸口の辺りにずらりと並んだ人影が見えた。

 え……?

 とっくに終わったと思っていたことが、まさか異世界で蘇るとは。

 ファンたちの出待ちが。

 大きく息を吸い込む私の耳元で、ルイレムさんが囁く。

「こんなこと何でもない、って顔で」

 いや、いくら何でも、人気商売でそれはないだろう。

  これから、地元の方々に愛されなければならない立場で出待ちのファンに知らん顔はできない。

 せめて、笑顔を見せて握手だけでも。

 そう思ったときには、マイペースなルイレムさんはひとりで外へ出ていた。

 見かけは理想的な巨乳エルフでも、ファンに一瞥もくれずに歩み去ったら好感度は爆下がりする。

 慌てて後を追いかけようとすると、後ろから腕を掴んで引き戻された。

「こっち隠れて……朝になるまで」

 見れば、ステージの前で私を見上げていた女の子だ。

「え……でも部屋なんか」

 廊下で毛布にくるまって寝た日には、宿屋そのものを追い出されることだろう。

 だが、女の子は真剣だった。

 痛いくらいの強さで、今度は腰に腕を回してくる。

「そんなこと言ってる場合じゃないの」

 路線違いの女子プロレスもかくやというベアハッグに、うめき声で答える。

「……出待ちでしょ、あれ」

 腰に巻きついた腕を振りほどこうとしたが、女の子の抵抗も凄まじかった。

「……何のこと言ってるかよく分からないけど」

 だが、レスラーでもない女の子の腕力には、おのずと限界がある。

 指の力が緩んだ一瞬を逃すことなく、私は猛然とダッシュをかけた。

「ごめんね!」

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