第7話 異世界の王国から興行のお許しが出て、20歳過ぎの元・地下アイドルは衣装の封印を解く

 だが、その必要はなくなった。

 今、私たちは宿屋の中庭に設営されたステージの上に立つ、偉そうな人の前で前でひざまずいている。 

 胸元に大きなリボンのついた礼服姿の痩せたオッサンが、おとぎ話で王様のお触れに使われていそうな巻物を恭しく開くと、声も高らかに述べ立てた。

「座長ホーソン並びに一座の面々に告ぐ! ひと月の間、次の条件で興行を認める」


 1、国の安全・平穏・秩序・良俗に背かないこと

 2、女王の名誉を傷つけないこと

 3、定められた税金を納めること


 王宮からの使者が読み上げたのは、リニシュテ王国の女王タウゼンテの名前で出された、まぎれもない「お触れ」だ。

 どの次元世界をまたいで興行していても、暦も1年はだいたい365日、名前のついた月が約30日ずつで12あるのと、偉い人のお許しがいるのだけは変わらない。

 もっとも、このときばかりはホーソンも、伏せた顔を背けて苦々しげな顔をしていた。

 何を言いたいかは、聞かなくても分かる。


 ……二度と来るか、こんなところ。


 女王サマからのお使いが帰った後、そのハーフオークの細くて、こすっからい眼が私をじろりと睨んだ。

「出番だ……オメエのあの服持ってこいや」

 いや、あれはもう、絶対に似合わない。

「でも……今さら、あれを着るのはちょっと」

 ホーソンはぶっきらぼうに答える。

「今、着ないでいつ着るんだよ」

 私はひとり、宿屋からあてがわれた納屋へ戻る。

 箒やら天秤棒やらを手当たり次第に放り込んだ感のある、狭い小屋だ。

 ホーソンはケチだから、自分自身も含めて客室なんか絶対に使わないし、使わせないのだ。

 ここでルイレムさんと身を寄せ合って寝るのは、そんなにいやでもないが、埃っぽいのだけはかなわない。

 それでもまっさらのままにしておけるように、何重にも布をかぶせてあるものがある。

 今こそ、その封印を解くときだった。

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