地下アイドルから声優目指しましたがオーディション落ちて異世界旅芸人一座も追放されて、魔人美少年とバディ組んでリベンジしました

兵藤晴佳

第1話 異世界で歌うメシスタントはモンスター上司のパワハラに耐える

 私はひとり、古い、目の粗いレンガが積み重ねられた炊事場の隅で、姐さんかぶりを解いた。

 自慢のアニメ声にもの言わせて、ちょっと歌ってみる。


  ねえ、覚えてるかな

  夢を語り合ったあの日

  でも、いまはひとり

  君との夢を歌うだけ……


 紺野麻美こんの あさみ、 24歳。独身。

 中学1年生でハマったアニメがきっかけでアイドル声優を目指した。

 親の反対を押し切って、高校と専門学校の合間に地下アイドルもやってみた。

 それが今では……。

「アサミ、ちょっと頼まれてくれ」

 この宿屋に芝居を掛けている旅芸人一座の座長、ホーソンが、毛の生えたごつい指で、大きな果物を目の前に突き出した。

「リンゴの皮剥いといてくれ」

 大きなのが3つくっついて、人間の胴体くらいになっている。

「私飯炊きじゃないんですけど」

「自分の服、食っちまうシーンに皮使うんだよ」

 服の切れっぱしに食いつくシーンでもあるのだろうか。

 この旅芸人一座と様々な次元を渡り歩いてきたが、やはり異世界のセンスはよく分からない。

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