第3話 カノンの診察

「カノンただいま! 」

 家に帰ってきたアリスは鍵を開けて、すぐに妹のカノンのそばけ寄る。

 その後ろを歩く魔法使い:テオはその様子を見て

「ちょっと、あわてないで! 」

 とアリスに声をけた。


 ベッドで寝込んでいたカノンは、かさねがけした毛布の中でもぞもぞと動き

「おかえりなさい…… アリスお姉ちゃん」

 と消えそうな声で返す。

 明るく振る舞おうとはしているが、さすがに具合が良くないらしく、その表情はいつもより暗い。


 老齢の医者が、カノンを診察する間、アリスはテオの着ているオレンジ色のコートの端を、ちょこんとつかみながら、カノンを心配そうに見つめている。

 アリスにはテオから「私より、お医者さんに診てもらうべきだ」と話していた。


 医者は先ほど、街の道を歩きながら、見慣れないコートの女性:テオに

「はて、あんたはアリスちゃん達の、親戚かい? 」

 とたずね、これに対してテオは

「あぁ、いや私は―― この子、アリスの友達だよ」

 と答えていた。


 今、医者は診察の道具をかばんに仕舞いながら

「うん。 また薬を出していくから、この前の薬と一緒に飲んで、安静にしていなさい。 体を温めて、冷やさないようにだけ注意するんだよ」

 と優しい口調で話している。


「ありがとうございます。 あの、今日のお薬のお金なんですが―― 」

「今日は要らないよ」

「え、そういう訳にはいきません! きちんとお礼は払わせて下さい! 」

「いいんだよ、アリス。 君のお爺さんには昔、とても世話になった。 それに、この前の薬代を貰ったばかりだ。 今は大変だろう、代わりに妹と、きちんとご飯を食べなさい」

「でも…… 」


 子供ながらに引き下がろうとしない様子を見て、テオがアリスの肩を優しく揺らし

「アリス、ここはお言葉に甘えるべきだ」

「テオさん…… 」

 アリスはテオを不安そうな目で見上げた後、医者に向き直り

「わかりました。 ほんとうにありがとうございます」

 深々と頭を下げた。

「あぁ。 カノンを大事にね」


 それから医者は帰り際に、テオと目が合うと、ちょいちょいと小さく手招きをして、ドアを開け、外に出た。

 テオも

「ごめんアリス、すぐに戻るから」

 と言って、医者に続く。







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