第2話 アリス、魔法に出会う。


 翌朝、妹のカノンの体調があまり良くなさそうだったので、アリスは急いで家を出て、いつもお世話になっている医者を呼びに走った。

 はぁ。はぁ。

 

 レンガと木組みの綺麗な街並みが、うっすらと雪化粧をして、冬の終わりの柔らかい日差しに照らされている。

 まだ朝が早く、人通りは少ない。


 「この階段を登りきれば、すぐそこだ―― 」

 息を切らしながら、階段を登りきる寸前、


「きゃっ――! 」

 アリスは足を滑らせてしまった。


 昨日振った雪が溶けて氷になっていたのだろう、アリスの体は背中から、階段の真下へ―― アリスは怖くてぎゅっと目をつぶり、

「おっとあぶないよ」女の人の声がした。


 強い衝撃を覚悟していたが、アリスが地面にぶつかることは無かった。

「? 」

 不思議に思ったアリスが、ゆっくり目を開けると


「うそ…… 浮いてる」

「だめだよ? 気をつけないと、冬の朝の階段はツルツルなんだよ? 」

 優しく注意するようで、どこか得意げな、明るい声だ。

 仰向けに浮いたアリスが横を見ると、そこに立っていたのは丈の長いオレンジ色のコートを着た若い女性だった。


 ゆっくり体の向きが直り、アリスは地面に足を着けた。

「いまのって、魔法、なんですか? 」 

「え、いや、まぁそうだね…… 」

 魔法使いはなんだか気まずそうに、目をそらした。


「妹を! 妹の病気は治せますか?! 」

「おぉっと! 」

 アリスが勢いよく詰め寄ると、お姉さんは半歩、後ずさりして


「ご、ごめんね、私のは病気治すとか、そういう魔法じゃないんだよ」

「絶対ですか?! なんとかなりませんか?! 」

「残念だけど、無理かな…… 」

「では、お知り合いには?! 」

「ちょ、ちょっと落ち着いて! 」

 興奮状態のアリスをどうにかなだめようとするが、アリスはそれどころではない。

 

「どうしても、今すぐ魔法が必要なんです。 もう普通の方法で妹は治せなくて、こんな奇跡二度と無いと思うんです! 」

「なるほどね…… 」

 その一生懸命な様子に、ある程度状況を察した魔法使いは、アリスの頬をむにゅっと両手で優しく押しつぶして


「わたしはテオ。あなたの名前は? 」

「わあひわありすえす(わたしはアリスです)」

 アリスは頬をむにむにされながら、必死に自己紹介をした。


「じゃあ、アリス。 まずは医者をよんで、君の妹のところにいこう。 たぶん、そのためにここまで来たんでしょう? 」

「ふぁい(はい)! 」 

 テオが一歩軽く踏み込むと、2人の体はふわりと小さく浮いて、階段を飛び越えた。


「アリス、わたしと魔法のことは内緒にしてね? 」

 2度目の魔法を体験し、テオが協力してくれる様子を感じたアリスは、喜びを込めて必死に頷いた。

 いま、アリスの瞳には、先ほどまでの絶望を覆うほど、大きな希望が輝いている。

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