第6話 僕の仕事①

僕らは大きな街へ来ている。

鳥兜のメンバーは移動するごとに多少入れ替わりが発生する。ククルが言っていた各人の目的によるものだろう。各々に都合の良い悪いがあるらしい。無論、僕には今のところ良い悪いの類はない。鳥兜に入団?してからは任務皆勤賞である。常にククルと一緒に旅をしているのはメェリと胡散臭い学者リフキーシである。加えてククルの護衛担当としてアルゴーと斥候や偵察を担当するドロンという青年、バンギギ、アララがレギュラーメンバーである。バンギギは僕と入れ替わりで別の任務を遂行中とのことで今だ顔を合わせていない。レンヤも戦闘メンバーとして任務をこなしていたらしい。女性はククルとメェリ、リフキーシとアララの4人だ。みんな美人だと思う。が、メェリ以外の3人は何というか、こう癖が強い。ククルは掴みどころがないし、リフキーシは学者を名乗っているが胡散臭い、というか何故学者なのに傭兵団にいるのかもよくわからない。一度理由を聞いてみたら、女性の1人旅は難しいからね、ククルに頼んで一緒にいるのよ。と言っていた。彼女が普段何をしてるのか全くわからない。アララはドラマに出てくるような女スパイや軍人を彷彿とさせる出立の女性だ。ククルに心酔している節が強く、任務中の最小限の会話以外話したことはない。腕は立つみたいで、よくククルの護衛に立候補している。


さて、今回はククルを入れて6人で任務にあたるらしい。ここはどこかの国の首都のようだが、首都と言われると少し迫力に欠ける気もする。メェリの話によると街の中心に大きな議事堂があり、そこに議会が存在する共和制の国だという。国としての規模は大きくはないが、外交が盛んであり絶妙なバランス感覚で他国から攻められずにいる国だそうだ。ちなみに僕が最初にいた国はいわゆる独裁国家。絶対的な皇帝が支配する国だという事は助けられてからしばらくしてから聞いた話だ。

僕はククルの護衛として彼女と一緒に依頼人の元へ向かうことになった。

基本的に事前に任務の詳細は聞かない。大規模な任務の場合は別だが、その場にいる誰かの指示で動くことの方が多い。仮に敵に捕まった場合を想定して、尋問を受けて情報が漏れるのを防止するためだとアルゴーが言っていた。

ククルの格好は相変わらずの白のパンツスーツ。と言っても、複数種類はあるのだろう、以前着ていたものとはデザインが微妙に異なる。今回の方がスタイリッシュさが高い。ちなみに僕はこの国の一般人がよく着るという、地味で目立たない服を着ている。今回は依頼人のところまで徒歩での移動だ。本来は馬車での移動が望ましいとの頃だが、街中を馬車で移動するのは都合が悪いから徒歩だという。きっと色々と考えた上での判断だろうが、もちろん詳細は不明である。大通りは程々に人通りが多く、確かに街を歩いていると大都市独特の人口密度は感じた。


「あの、ククル」

「なんだい?」

「どうして僕なんですか護衛?」

「ん、嫌かい?」


僕が任務に出るようになってから、ククルの護衛を僕が担当することが圧倒的に多いのだ。ククルが直接何処かに移動する際は毎回一緒に移動して、彼女の護衛をしている。最初のうちは僕が馴れるためかともの思ったが、流石の僕も馴れてきた。それでも依然として護衛担当は僕だ。なぜ僕なのだろうと不思議な限りである。


「嫌とかそういう訳じゃないんですけど、もっと適任いますよね?」

「ふーん。適任か、例えば?」

「例えば......」


言われてみると、護衛っぽい人いるか?鳥兜の面々は全員と会っている訳じゃないが、傭兵っぽくない人がほとんどだった。詐欺師みたいな人やマッドサイエンティスト、可愛い少女、民族衣装の人、猛者の風格ある戦士。実力的に護衛ができるか、できないか、で言えばできる人がほとんどだろう。そもそもククルに護衛がどの程度必要なのかもわからない。少なくともククルは一般人よりは腕が立つ、ちょっとした荒くれ者程度なら勝てるだろう。そう考えると、護衛の適任者は同性のアララだろうか?けれど彼女とククルが並んでいたら人集りができても不思議ではない。他は1人しか思い浮かばない。嫌でもそうするとやっぱりちょっと目立ちすぎるか?


「......アルゴーとか」

「アルゴー?あいつ連れて歩いたら目立ってしょうがないよ」

「あー、まぁ、それは、確かに」


僕はなんとも言えない返事をしてしまう。アルゴーとククルが並んで歩いたら完全に美女と野獣である。今よりも目立つことは確実だろう。だた、もうすでにククルが目立っているとは敢えて言わないことにした。人通りが多いから全員から見られている訳ではないが、すれ違う人の半数以上が二度見している。原宿や表参道を歩く有名モデルと偶然すれ違った様な反応だ。見たことはないけど。

彼女の横を歩く僕を見るものは全くいない。ククルの事は出会った時から美人だと思っていたが、やはりこの世界の誰から見ても美人な様だ。


「アルゴーはあの見た目だろ。それこそいるだけで相手を威圧しちゃうからね、特に今回の私の同行者には不向きだよ」

「ならアララは?」

「彼女は確かに護衛に適しているよ。今回に関してはNGだけど、私とアララが2人でこうやって歩いていたら、逆に良くない輩が寄ってくるだろ?それは面倒だからね」

「想像はできますけど......」

「その点、ミキオは相手を威圧することはないし、私と一緒にいても違和感が少ない。私のところの従僕と言って信じない人はいないだろうからね」

「まぁ、護衛には見えないでしょうね」


ククルはしたり顔をしている。自分で言うのも何だが、僕に威圧感はないだろう。背丈も普通、体格も普通。ククルと並んで歩けば彼女の方が背が高い。言ってしまえば僕の方が弱そうだった。目立つ武器の類を持っている訳でもないし、尚更だろう。この国は武器の扱いが厳しいらしく、目立つ武器の類はメェリに没収されている。僕はほとんど手ぶらである。


「今回の依頼人はそれくらい油断させて起きたいんだ」

「それは今回もでしょ」

「バレてたか」


ククルは笑う。確かに思い返せば僕が護衛としてついていくと、相手によっては「護衛も連れずに来るとは......」と言う風に驚く人もいた気がする。油断を誘う、少しでも交渉を有利に進められる状況を作るためにわざとやっているのだろう。真意は僕にはさっぱりだけど。でも、ククルは何か考えがあってやっていることだろう。それに従えば良い方向に進むと思わせてくれる雰囲気が彼女にはある。まだ、一緒にいる期間は短いけれど、僕にはそれがククルの持つ魅力でありカリスマ性だと思えた。


「そういえば、ミキオも言葉だいぶ上手になったね」

「ありがとうございます。ククルとメェリ、それにみんなのおかげです」

「うん、そうだろうね」


ククルは私が育てたぞ!という顔をしている。まぁ嘘ではないけれど......。

自分でも見違えるほどに、異世界の言葉は上達した。最初はカタコトの挨拶すらまともにできなかったのに、今では普通に会話できている。


「これも私の教え方が上手かったからだね」

「どちらかと言えば、メェリのおかげですね」

「もう、ミキオは吊れないね」


実際、言葉を教えてくれたのはほとんどメェリだった。本当に親身に教えてくれた。

日中は事務作業、夜の自由時間で僕の指導と最初の数週間は彼女に無理をさせてしまった。ククルにも僕を快く迎え入れてくれたりともちろん恩義は感じている。この恩はいつか必ず返そうと思う。


「まぁ、メェリは人に教えるのがうまいからね」

「そうですね」


そんな雑談をしていると、人通りの多い道を抜けた。比較的高級そうな建物が並ぶ場所。テレビで見たヨーロッパの街並みに近い。石畳と煉瓦造りの建物。こうして歩いていると異世界ではなく、ただの海外なのでは?と思えてしまう。

けれど、この世界には電化製品もないし、日本も存在していない。やはりここは異世界なのだ。そうそう助けられた時に見せてもらったが呪いまじないと呼ばれる術?もあるようだ。一応説明は受けたが、イメージしていた魔法よりも占いの類に近い気がした。特殊なインクを使って文字や模様を書き、何かを燃やしたりして特定の効果を与えるものだという。メェリとリフキーシに詳しい話を聞いたのだが、頭には入ってこなかった。扱える人はそう多くないらしいし、試しに僕の適正を調べてもらったが適正はなかった。せっかくの異世界ならばせめて適正をつけて欲しかったものだ。


「もうすぐ、依頼人と落ち合う場所だね」

「こんなところで会うんですか?」

「どうやら依頼人の別宅があるみたい」


別宅があるということはどこかの国の貴族だろうか。この世界の金銭感覚は良くわからないが、それでも貧乏人が別宅を持つことはないだろう。

これはメェリから聞いた話だが、ククルは依頼人の地位や報酬だけで依頼は選ばないらしい。確かにククルはこの1ヶ月で様々な依頼人と会い、その内の半数以上の依頼を受けている。そして依頼は一緒にいる仲間の誰かが直接動くか、伝書鳩を使い別行動中の部下に指示を出していた。複数の依頼を同時にこなしていることも少なくなく、各国にいる部下には各々に別の任務を遂行させていることも多いという。ちなみにこの世界では伝書鳩が最も効率的に早く情報を伝える手段だとククルは言っていた。僕は現状ククルの護衛が多いので、彼女と一緒に行動することがほとんどである。


「ここの様ね」

「あまり目立たないですね」


そこは煉瓦造りの集合住宅のようだった。安っぽくはないが、セレブが住むには少し地味に見えた。通り過ぎた中には、見たこともない高級そうな物件もあったのに、僕の予想は外れた様だ。一体どんな人が依頼人なのだろうか。僕がぼーっと建物を見ていると、ククルに「行くよ」と手を引かれる。

そして僕はククルに連れられて、建物の中に入るのであった。

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