lambに乱舞

滝川 海老郎

第1話 本編1700文字

 エイント山脈でブラックドラゴンと戦闘し、山脈を超えてこちらのヒルエリア高原に抜けてきた。

 ぱからっぱからっとここまで馬で駆けた。


「マルクもちょっと待って」

「なんだエイダ、お疲れか」

「そうよ。クーシェも苦笑いじゃないの」

「そ、そうか」


 そろそろ休憩が必要か。

 俺、マルクは戦士、自分でいうのは憚られるがクシリナーダ王国の認定勇者だ。

 今は国境の山脈を超えて隣国であるヒルエリア王国に入ってしばらくした位置にいる。

 エイダは魔法使い、クーシェは聖女だった。


 王国の精鋭騎士団も随伴してきていたのだが、ドラゴン戦に苦戦し何人か被害を出したので、素材を持って国に帰ることになったのだ。

 ここから先は俺たち勇者パーティーのみで進むことになる。

 マジックバッグはあるものの、毎日食事をすれば中身も減っていく。


「次の街はどこかしら」


 エイダが首を傾げて質問してくる。


「首都ヒンバイはずっと西らしいな」

「その前に街があればいいけど」

「どうだか、遊牧民だからなぁ」


 そうなのだ。首都でこそ定住しているが、多くの国民は馬を連れて遊牧生活をしている。

 そのため定住する街があまりない。

 俺たちは補給がしたかった。


 そんなヒルエリア高原を何日か進んだところで、テント村を発見した。

 ありがたい。ここで補給ができるだろう。


「こんにちは」

「おやまぁ、南の国の人ですかなあ」

「そうです、そうです」

「あるものしかありませんが、ゆっくりしていきなされ」


 村長に面会してテントの中へと案内される。

 囲炉裏を前に集まり、馬乳を振る舞われた。


「どうぞ、お飲みください」

「あ、ありがとう」


 なんだろう。美味いとも不味いとも言い難いが、素朴な味だ。

 エイダもクーシェも変な顔をしていて、どこかおかしいので、逆に俺は笑った。


「肉や魚、それから野菜を分けていただきたいのですが」

「それなら新鮮な方がいいでしょうな」


 話に乗ってくれるようだ。

 こちらとしては金貨を出す用意があった。

 金貨は国境を越えたこちら側でも使用できた。


「剣や魔法は使えるようにお見受けします。一緒にlambを狩りましょうか」


 lambとは一般的にはラムと呼ぶ魔物だ。大羊の幼体で、この地方では訛っていて「ランブ」に近い発音をする。

 真っ黒い毛にクルクルした角が特徴なのだけど、雷魔法で攻撃してくる。


「分かりました」


 自分たちで狩れということだ。

 武装した村人と一緒に村を出る。


しばらく進むと高原に黒い点がいくつか見えた。


「ラムだ、いるぞーー」

「「おおおお!!」」

「いけいけいけぇ」


 馬に乗った村人が次々と突撃していく。

 俺たちも自分の馬に跨って進んだ。


「ファイア・ボール」

「アイス・ボール」


 村人の放つ属性魔法と呼ばれる火、水、風などを司る精霊魔法がいくつもラムに向って飛んでいく。

 村人たちは右側のラムをターゲットに選んだようだ。

 俺たちもそれに続く。


「エイダ、クーシェ、いくぞ!」

「もちろんよ」

「やりますわよ」


 敵はもう目の前まで迫っていた。

 村人の攻撃でいくらか弱っているもののまだまだ健在だ。


「フレーム・ボンバー」

「セイント・パウダースノウ」


 エイダの紅蓮の炎とクーシェの聖なる粉雪がラムに襲いかかる。

 村人の攻撃魔法より強力だった。


「メゥエェェ!」


 ラムが一鳴きして動きを止めた。

 今だ。


「おりゃああああああ」


 我が愛剣、シルビック・ソードを上段で振るう。

 ラムを切り裂いていく。


「てやああああ」


 返し刀でもうひと太刀斬る。


 その場に一瞬、静寂が訪れた後、大きなラムがドスンと倒れた。


「やったぞぉ!!」

「南の国の人が倒した!」

「俺たちの勝利だ」


 はぁはぁはぁと粗い息を吐く。

 勝負は一瞬だったが、そのためには魔力を集め練りあげ、放出するという魔力制御が必要であり、それが身体強化の魔法であった。

 俺が得意としているものの一つだ。


 ラムはその場でいくつかに切り分けられテントのある村まで運んでいく。


 そして念の為周りの偵察をして村に戻るとすでに宴が始まっていた。

 鮮度が高いうちに食べるものを鍋にしている。

 村人はどこかから持ち込んだ酒で乾杯もしている。


「乾杯!」

「「「乾杯」」」


 俺たちはいつでも戦闘できるように酒は控えている。

 それでも鍋は振るわれてみんなで舌鼓を打つ。


「うまいな、これ。よかったな」

「マルクも戦ったものね」

「マルク様はお強いのですわ」


 ちびちびと色々な料理にも手を付けた。

 村人たちが残っているラムを囲みながら踊りだす。


「lambに乱舞、なんちって」


 こうして今日も夜はふけていく。

 勇者の旅はまだまだ始まったばかりだ。



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