第3話

母が亡くなったあの日から、私はずっと抜け殻のようだった。何をしても身が入らず、成績も下降の一途を辿っていた。それに関して、父が口出しすることもなかった。

母の遺品整理をしていると、日記のようなものが出てきた。そこに書いてあったのは、歌手としての母の想像を絶する苦悩だった。多くのプレッシャーを抱え、自分を見失いながらも、聴いてくれる人々のために歌いたいという母の強い想いが伝わってきた。母の想いを継承したい、日記を読み終わった後に私が抱いた感情だった。そしてその感情は、日に日に私のポッカリ空いた心の穴を埋め尽くしていった。

「私さ、歌手になろうと思うんだ。」もしかしたら、私が父に自分の将来の話をするのはこれが初めてだったのかもしれない。父はじっと私の目を見て、「いいんじゃないか。」と一言だけ言った。それから私は、進路希望を母と同じ音楽大学に変更し、夢中で歌の練習に勤しむようになった。そして、ついに大学に合格し、歌手としての大きな第一歩を踏み出すことに成功した。

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