10月 繭
俺が家に帰ると、真っ暗な寝室で真輝が寝ていた。こんもりと膨らんだセミダブルサイズの掛け布団にくるまって、真輝はただ静かに息をしていた。
「真輝」
俺はその場に荷物を下ろして、電気はつけないまま、そっと近寄る。返事はない。顔をすっぽり覆っている布団をめくると、寝顔の眉根が少しだけ寄った。
「夜ご飯、買ってきたけど。あとケトルも」
俺が言っても、真輝は目を覚まさない。聞いているのか、いないのか。
確かめることはしない。俺は静かに布団に侵入して、丸まった背中に自分の体を沿わせる。冷たかった足先に、布団の温もりがにじむ。
今日は買い出しを兼ねて、最寄りの主要駅まで一緒に遊びに行く予定だった。でも朝になっても、真輝はいつまでも起きなくて、ああ、またこの時期が来たんだと思って、俺は一人で出かけた。
壊れてしまったケトルの買い替えは、全額ポイントで賄えたこと。
昼に食べたスパゲッティがおいしかったこと。
返事のない背中に、ぽつりぽつりと語りかける。季節の変わり目になると、真輝は少し調子を崩す。そうしてこんな風に、大きな繭にくるまってしまう。
眠ってしまった俺の恋人。でも心配する必要はない。今日の夜か、遅くとも明日には、彼は何事もなかったかのように生活を再開する。もしかしたら、眠ることで全てのスイッチを切り替えているのかもしれない。
「もう、冬が来るな」
寒いのは嫌だな、と付け加える。「うん」と小さな返事があった。
「ご飯なに?」
口では「マグロ」と言いながら、第一声がそれかよ、と心の中でツッコむ。ああそうだ、米を炊かなければ、と思い出して、俺は布団を抜け出した。
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