10月 金木犀

「あ、金木犀だ」


 大通り沿いを歩いていると、隣に立つ真輝が声を弾ませた。夕食を求めて、近くのファーストフード店を目指している途中だった。



「俺正直、金木犀のこと、よくわからないんだよな」



 そう答えると、真輝は「これこれ」と指をさしながら、車道側の街路樹に近寄った。視線を向けると、真輝より少し高いくらいの、もっこりと丸みを帯びた木に、小さな花がびっしりと咲き乱れているのが見えた。



「今もほら、甘い匂いがするだろ。金木犀は香りが強いから、咲いてるとすぐにわかる」



 俺は思い切り息を吸い込んでみる。そう言われれば、最近民家のそばを通る際に時々鼻先を掠める香りが、今も鼻腔を通り過ぎていった気がした。



 これが金木犀なんだ、と、俺はようやく納得する。一度認識してしまえば無視できない華やかな香りは、多くの人に愛されるのもうなづける。



「気に入った?」



 真輝はそう言って、俺の顔を覗き込んできた。



「気に入った」

 


 俺の答えに、真輝は嬉しそうに微笑んだ。頭の中の図鑑に、金木犀の見た目と香りが、なんだかとても『いいもの』として登録された瞬間だった。

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