9月 米
我が家の米が尽きた。なぜか。米不足のせいである。
少し前、スーパーから米が消えた時は、空っぽの米コーナーを前に、「令和のこの時代に」とひどく驚いた。
隣に立つ主婦は、淡々とした表情で、レンチンできるパックの米をしこたま買い物カゴに突っ込んでいた。順応力がすごい、と感心したのを覚えている。
そんなわけで、新たな米を補充し損ねた結果、我が家の米は今日の昼、ついに尽きてしまったのであった。
「これを食べてみようと思う」
買い物担当の理玖が、レトルトのスパゲッティソースにも似た紙箱を、机の上に二つ置く。近所のコンビニで買ってきたらしいそれには、『麻婆うどん』という文字が踊っていた。
「麻婆うどん……?」
「うん」
ちょっと気になって、と理玖がはにかむ。
「食ってみたくね?」
「それはまあ、気になるけど」
うーん、おいしいのだろうか。
うどんの上に麻婆豆腐が乗ったパッケージを見ながら、俺はつい首を傾げた。開発者の発想力がすごい。あと、米がないからってこれを買ってくる理玖の順応力もすごい。主婦並みである。
「しかも、茹でたうどんにマジでかけるだけ。すごくね? たまたま目に入って、買ってきちゃった」
俺ちょっと作ってくる、と言った理玖は、嬉々として部屋を出ていった。やがて、キッチンの方から、チチチというガスをつける音が聞こえてくる。
機嫌よさそうな鼻歌がその後に続いて、俺は苦笑した。恋人が楽しそうでなによりだった。
それはそれとして、早くスーパーで米を調達せねば――そのうちミート蕎麦(蕎麦にスパゲッティ用のミートソースをかけたもの)とかを食べるハメになりそうで、ちょっと怖い。
……いやまあそれは、スパゲッティで食おうぜと言えばいいのか。
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