7月 行先
大型ショッピングセンターに買い物に行ったら、イベント広場で沖縄フェアをやっていた。「なんで夏は沖縄なんだろうね」と問いかけると、傍らを歩く理玖は不思議そうに首を傾げた。
「なんでもなにも、夏といったら沖縄だろ」
「いやまあ、そうなんだけど。でも沖縄、暑くない? 気温でいけば北海道一択だと思うんだけど」
世間的なイメージとして、夏は沖縄、冬は北海道だと理解してはいる。ただ毎回、どうしても首を捻ってしまう。長野県の軽井沢なんかは、この時期避暑地としてプッシュされているのに。
東京から出発するとして、ちょっとの移動では涼しさを求めて、何泊もするような大移動ではわざわざ暑いところを目指すなんて、なんだか倒錯している。
真夏の北海道、よいではないか。連日満員電車で他人の熱気と脇汗の臭いに晒されている身としては、からりと清潔な空気漂う北海道に、この時期だけでもテレポーテーションできないものかと考えてしまう。
「そりゃお前、海があるからだろ」
どうということもないような調子で、理玖は俺の疑問に答えてみせた。予想外の方向から飛んできた理由だったので、反射的に問いかけるような視線を送る。
「夏の北海道に雪はねーし。結局、そういうことなんじゃねーの」
「でも海なら、本州にもいっぱいあるじゃん」
「ちげーよ。綺麗な海で、泳ぎたいだろ。いくら沖縄でも、さすがに一年中泳げるわけでもないだろうし」
口を大きく開けたまま立ち尽くす俺を見て、理玖は「そういやそうだったな」と頭をかく。
「お前、泳げないんだった」
俺は急に恥ずかしくなって、理玖から全力で顔を背けた。確かに小さい頃から泳ぎは苦手だ。海に行くことを考えたって、泳ぎたいだなんて一度も思ったことがない。
「来週末が思いやられるな」
三連休は人混みがすごそうなので、海は来週末にひっそり行くことになっている。理玖が言っているのは、その時のことだろう。
「溺れたらちゃんと助けてね」
念を押すと、「善処するよ。まあ俺、真輝のこと引き上げてやれるかわかんないけど」と苦笑する理玖であった。頼りない腕を見て、浮き輪だけは離さないようにしようと決意した。
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