7月 夏

「あっちー……あちいぞ、真輝」



 自室のフローリングに大の字に寝転がって、理玖がぼやく。「クーラーつけたら?」と声をかけると、ううん、うん、という曖昧なうめきが返ってきた。



 一緒に住んでから、初めての夏だ。暑い日が増えてきて気がついたのだが、理玖はクーラーをつけたがらない。暑い暑いとうるさいくせに、自分からは絶対にリモコンを握らない。



「俺も暑い。扇風機限界。クーラーつけてよ」

「いやあ、でもなあ。ここでつけたら負けな気がするんだよな」

「時代は令和なんだけど」



 俺はいじっていたスマホゲームを消して立ち上がり、依然寝転がったままの理玖の横を通ってベッド脇を目指す。枕元に置かれたリモコンでクーラーの電源を入れ、その足で扇風機を消し、窓を閉める。



「ああ……シロクマが」

「なんだって?」



 苦笑混じりに振り向くと、じっとりとした目がこちらを見上げていた。



「俺たちが快適な思いをした分だけ、北極の氷が溶けてシロクマの居場所がなくなる」

「お前、いつからそんなに博愛主義者になったの」

「元からだよ。俺は昔から、等しくあまねくものに優しいだろ」



 あとはちょっと、電気代が心配。



 視線を逸らして拗ねたように付け加えた理玖である。そっちが本音か、と呆れる俺の横で、理玖はエアコンの風が直接あたるベッドまで這っていった。



 快適快適、とつぶやきつつ、目を細めて冷風を堪能している。いざつけるとなったら、シロクマも電気代も忘れて恩恵を受けるスタイルらしい。相変わらず、ちゃっかりしている。



「やべえ、ちょっと寒くなってきたかも」



 理玖がそうこぼしたのは、十分後のことだった。ベッドの上に寝転がったまま、「まき、まき、」と手招きしてくる。



「なに?」



 近づいて覗き込んだところを、ぐっと引き寄せられた。冷え切った腕に抱き込まれて、身動きが取れない。あっという間に侵入してきた舌はずいぶんと熱い。



「はは、嘘つきだ」



 俺が笑うと、理玖は「うん?」とおどけてみせた。骨っぽい手が俺のTシャツを奪い去っていく。汗ばんだ肌に、氷のような指先が心地よい。



「コタツにアイス。冷房に真輝。最高だよな」

「……シロクマはいいの」

「謝っとくよ」



 自分のTシャツをがばりと脱いで、理玖が俺を見下ろす。冷たかったはずの首筋に汗が伝うのを見て、俺の耳もぱっと熱くなった。



 夏だ。

 

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