6月 喧嘩
真輝と喧嘩をした。真輝が月曜の可燃ゴミをまとめ忘れたからだ。相変わらずの雨と出勤前のバタバタで、少し口調が強くなったのがいけなかったのだと思う。
「真輝、ゴミ」
「ごめん俺もう時間ない」
「俺だって時間ないよ。今週は真輝だろ」
いつもの真輝だったら、すぐに眉尻を下げて「ごめんね、来週も俺でいいから」と言うはずなのだ。でも今朝は「たまには許してよ」と拗ねたように返してきた。
「俺は理玖が忘れても怒らないじゃん」
「そういう問題じゃないだろ」
「……行くね、理玖も気をつけて」
ばたん、と目の前で扉が閉まった。こんな風に置いていかれるのは初めてで、胸のうちにもやもやが渦巻く。
結局一日、納得いかない気持ちのまま過ごすハメになった。俺、間違ったこと言ったか? という主張と、真輝が怒るなんて珍しいなという不安が交互に浮かび上がって、書類のコピーを三回ミスった。上司には「珍しいね」なんて呆れられながら、やんわりと注意された。
まあ家に帰ったら、真輝もいつも通りだろう。
そう思ったのに、アテが外れた。俺よりも後に帰宅した真輝は、「ただいま」と小声で言うとさっさと手を洗って、夕食を食べたらすぐに自室に引っ込んでしまった。
いつも開けっぱなしの、俺の部屋との境にある引き戸が閉められている。なにさ、と思いながらシャワーを浴びた。戻ってきても、扉は閉まったままだった。
しばらく待っても、一向に出てくる気配がない。時間はもう二十四時を回る。ベッドは俺の部屋のほうにあるので、眠くなったら戻ってくるだろう。
そう考えつつ、このまま明日になったら嫌だなと思って引き戸を開けた。部屋は真っ暗で、真輝は右手を枕にして、ローテーブルの向こう側に寝転がっていた。
「真輝」
寝ているようだ。そっと近寄って肩を揺すると、長い腕がするりと伸びてきて抱き込まれる。
「ごめんね」
真輝はそれ以上何も言わなかった。本当はどうして怒っていたのか聞きたかったけれど、絞り出すようなつぶやきに何も言えなくなってしまった。
「俺もごめん。あっちで寝よう」
そう答えても、真輝はなかなか腕を解いてくれなかった。蒸し暑い部屋の中で、二時間ほどそのまま一緒に寝てしまった。
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