6月 祝日

「六月は嫌いだ」



 机の天板に頬をつけて俺が宣言すると、真輝はゆるゆると笑いながら「なんで?」と尋ねてきた。



「祝日がない」

「え、そうなの」

「知らねーの?」



 調べてみなよ、と、机に置きぱなしの真輝のスマートフォンを顎で指す。それを手に取った真輝は、画面をしばらく操作をして、「ほんとだ」と目をしばたたいた。



「初めて知った」

「幸せなやつ。真輝は仕事好きだからいいよな」

「まあ嫌いじゃない」



 皆いい人だし、と付け加える顔を、下からじっとりと見つめる。俺だって、別に周りの人が嫌いなわけじゃない。朝起きて出勤して仕事をするという、その行為自体が嫌いなのだ。



 眠い時に寝れないし、食べたい時に食べれないし。



「俺は真輝とずっと家にいたいよ」



 あはは、と笑って、真輝の目がきゅっと細まった。「俺だってそうだよ」と大きく伸びをする。



「でもそれ言ったら、なんにもできなくなっちゃうからねえ」



 お茶飲む? と立ち上がった真輝に「飲む」と答えて、俺は仰向けに寝転んだ。蛍光灯のカバーの奥に、点々と黒い影が見える。



 あれは虫なのだろうか。見るたびに密かに気になっているのだが、調べたことはない。答えを知って、もし虫だったらと思うと、なかなか検索をかける意欲が湧かない。



「はい。どーぞ」

「さんきゅー」



 ことりとグラスを置く真輝に礼を言いながら、天井を指差す。



「あのさ、」

「ん?」

「あれってさ、」



 ふと我に返って、俺は言葉を飲み込んだ。真輝に聞いたら、必ず答えがわかってしまう。真輝は知っていれば答えるし、知らなければその場ですぐに検索をかける。



「やっぱいいや」



 真輝は不思議そうに首を傾げた。こいつには一生わかんないんだろうなあと思うと、ついため息混じりの笑いがこぼれた。

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