4月 スーパー

 ゴールデンウィークはカレンダー通りの出勤だという真輝は、前半の三連休を使って実家に帰った。真輝とは地元が同じなので自分も帰省しようかと迷ったが、彼ほど親と仲がよくない俺は結局、アパートに残ってたまの一人時間を満喫することにした。



 旅行もしない、帰省もしないとなれば、ゴールデンウィークといえども普段の休日となんら変わりない。一日目の今日は、観たかった映画をパソコンで観ていたらいつの間にか夕方になっていた。真輝がいなくて暇だったので、お昼も食べずに二時間ものを三本続けて観てしまった。



「いらっしゃいませっ」



 自動ドアをくぐると、やたらと大きな機械音が頭上から降ってきた――本当はあと一本、今日中に観たい作品があったが、さすがに目が痛いので休憩がてらスーパーまで買い出しに来た。



 入り口で買い物カゴを取り、魚コーナーを目指す。米は炊いたので、適当に刺身でも買ってさっさと帰ろう。



 真輝がいる時は、ホラー以外の映画はあまり観ない。一月あたりに一瞬、一緒に色々なジャンルの映画を観た時期があったが、お約束のように挟まるラブシーンで結局真輝の方を構ってしまい、最後まで観れないなんてことが続いたのでやめた。映画を観るなら映画に集中したいし、真輝を構うなら最初から真輝に集中したい。



 我ながら珍しく早足で魚コーナーを目指したが、途中のパンコーナーで真輝がいつも探している幻のメロンパンを見つけてしまい、思わず立ち止まった。このメロンパンは店舗内の工房で焼いていて、とてもおいしく、やはり人気なのか滅多に店頭に並んでいない。



 ラスト一個――いやでも、明後日まではもたないか。



 俺はパンコーナーを離れて、再び一足踏み出す。すると今度は通りすがった乳製品のコーナーで真輝がよく買っているプリンを見つけた。



 買ってもよかったが、「今日は特別」と言ってプリンを手に取る真輝の笑顔を思い出して、やめた。あれは自分で手に取って買うのが楽しい人間の顔だ。



 結局、魚コーナーでマグロの刺身を買った後も、ペットボトルコーナーに行けば真輝の好きなトマトジュースが目につき、お酒のコーナーに行けば以前二人で飲んだワインが目につき、野菜のコーナーに行けば真輝の嫌いなスナップエンドウが目についた。



 もし真輝が死んだら、俺は多分、このスーパーには一生来れない。



 せっかく一人時間を満喫しようと張り切っていたのに、無性に寂しくなってしまった。どうやって責任を取ってもらおうかと思案しながら、暗い帰り道を歩く。



 一人で詰めた袋の中身は、いつもより随分と少なかった。

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