4月 4月4日

 予約が苦手だ。締め切りの幅が広いのでついうっかり機会を逃してしまうし、注文と実際に商品を受け取るまでとにタイムラグがありすぎてイマイチしっくりこない。



 同じ理由で通販も苦手だ。しかし生まれてこの方二十五年、それで困ったことはほとんどない。欲しい物は大抵最寄りの大型ショッピング施設にでも行けば売っていたし、どうしても必要な予約やネットショッピングは家族や友人がなんとなくこなしてくれていた。真輝と付き合いだしてからは余計そうだ。気の長い真輝は予約だとか通販だとかが得意だし、彼は非常に俺に甘いので、それはそれはお世話になりっぱなしである。



 そんなこんなで俺は自分の予約嫌いを特に嘆くこともなく生きてきたのだが、今この時ばかりは自分の怠惰な性格を呪わざるを得ない。目の前のショーケースにスペシャルイチゴショートしか残っていないのだ。



「ごめんね。今日はなぜか大繁盛だったんだよ」



 顔見知りのおばあちゃん店員がすまなそうに手を合わせた。内心焦りつつ口では 「大丈夫です」と答えてスペシャルイチゴショートを二個注文し、手渡された紙製の箱を落とさないように気をつけながらアパートへと帰った。



「お帰り、理玖。どうしたの? そんなに落ち込んで」



 珍しく先に家についていた真輝が居間のカーテンを閉めながらこちらを振り向いた。



「ごめん、真輝」

「ん? どうした?」

「これしかなかった」



 俺が紙箱の上部を開けてスペシャルイチゴショートを見せると、真輝が「あ」という顔をした。



「タルト、珍しく売り切れてて……嫌だったら今度改めて買うから」



 せっかくの誕生日なのにごめん、と付け加え頭を下げる。少しの沈黙が永遠に感じられた。



「俺さ、生クリーム駄目じゃん?」

「うん。知ってる。本当にごめ――」

「でも理玖が好きだからさ。実は最近少し挑戦したいなーとか思ってたんだ」



 え、と顔を上げると、真輝はにっこりと微笑んで照れくさそうに頬をかいた。



「食べきれなかったら、残りは食べてくれる?」



 右手の薬指に今朝渡したばかりのペアリングが光る。俺が礼を言って抱きしめると、真輝は耳元で機嫌よさそうにささやいた。



「大好きだよ、理玖」

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