3月 記憶

 俺と理玖が初めて会ったのは高校一年生の時だ。入学一週間後に行われた席替えで、隣の席になったのが理玖だった。色が白くて中性的な見た目の彼に最初は身構えたけれど、授業で使うプリント類を理玖がよくなくすので、隣の席の俺が机をくっつけて見せてやらざるを得なかった。



 毎回毎回そんなことをやっているものだから、プリント学習が多かった古典の先生にはよく笑われた。クラスメイトたちも、掃除のために後ろに下げた机を戻す時などは、俺と理玖の机だけわざとくっつけて置くようになった。



 一学期が終わって夏休みに入っても、俺と理玖はしょっちゅう会って他愛のない話をした。地元の田舎町は車なしで遊べるところなど限られていたので、学校近くのカラオケやフードコートが主な溜まり場だ。二人で会うこともあったし、他のクラスメイトを交えて五、六人で集まることもあった。理玖は静謐な見た目からは想像がつかないほど、よく笑い、よく泣き、よく怒った。人懐っこい性格をしており、人生を楽しむのが上手く、女子からも男子からも人気だった。



 夏休みが明け、最初のホームルームで席替えをした。理玖は一番前の席に、俺は窓際の一番後ろの席になった。理玖はプリント類をきちんと持ってくるようになった。それを見たクラスメイトが、「もうお母さんには頼れないもんね」と茶化していた。

 


 過ぎ去ってみれば、青春はいつでも鮮やかだ。自分がそこに立っている時は、泥に飲まれるような息苦しさばかり感じていたとしても。

 


 久しぶりに遊んだ高校一年のクリスマスイブの日、夕暮れの街中で、「まき」と背中越しに差し出された掌を覚えている。飼い犬を呼ぶようなぞんざいな口調が愛しかった。きっと理玖は少し照れていた。俺は周囲を歩く人の目ばかりが気になって、すぐにはその手を掴めなかった。その代わり、人通りが少ない家の近くの路地裏でひっそり、触れるだけのキスをした。



 自分の唇が彼を選んだことを自覚した時、俺は初めて、もうずっと彼に恋をしていたのだと気づいた。自分の選んだ結果に自分で驚きながら理玖を見つめると、ちょうど彼も同じような表情をして、俺の顔をまじまじと見返していた。

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