2月 束の間の
朝被った上着が温かいと一気に気分が高揚する。そんな俺を見て、真輝は毎年、「機嫌がいいね」と声をかけるのだった。
「機嫌がいいね」
「まあね」
テキパキと朝食の準備をする俺を、真輝はソファからぼんやりと眺めていた。くるまった毛布からはスッキリとした鎖骨が見える。「服着たら?」と声をかけても生返事が聞こえてくるだけで、真輝は一向に動きださない。
「真輝、真輝」
部屋着のスウェットを持って近づいたところをがばりと捕獲され、俺は小さくうめいた。一糸纏わぬ身体がぴったりとすり寄ってきて、次の瞬間には毛布の住人にされてしまう。逃げようにも逃げられず、仕方がないので腰の辺りを両手で抱き込むと、真輝はむずがる赤子のように俺の肩口に頭突きを繰り返した。
「お前はこの時期駄目だよな」
「うん。寂しい」
真輝は何がとは言わなかった。ただじっと目を閉じて俺に身を預け、何かを考えているようだった。
「真輝、服を着よう」
頃合いを見てもう一度声をかけると、今度は素直にうなずいてくれた真輝である。当然のように両腕を上げてみせたので、俺は苦笑しつつ彼の上半身にスウェットを被せてやった。それで切り替えがついたのか、真輝は毛布を纏ったまま立ち上がると、床に散らばった下着とズボンを身につけて大きく伸びをした。
「あったかい。春だ」
「そうだな。春だ」
明日からまた寒い日がやってくることを、俺は知っている。それでも、俺たち二人は今日、この2DKで確かに春を感じたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます