2月 束の間の

 朝被った上着が温かいと一気に気分が高揚する。そんな俺を見て、真輝は毎年、「機嫌がいいね」と声をかけるのだった。



「機嫌がいいね」

「まあね」



 テキパキと朝食の準備をする俺を、真輝はソファからぼんやりと眺めていた。くるまった毛布からはスッキリとした鎖骨が見える。「服着たら?」と声をかけても生返事が聞こえてくるだけで、真輝は一向に動きださない。



「真輝、真輝」



 部屋着のスウェットを持って近づいたところをがばりと捕獲され、俺は小さくうめいた。一糸纏わぬ身体がぴったりとすり寄ってきて、次の瞬間には毛布の住人にされてしまう。逃げようにも逃げられず、仕方がないので腰の辺りを両手で抱き込むと、真輝はむずがる赤子のように俺の肩口に頭突きを繰り返した。



「お前はこの時期駄目だよな」

「うん。寂しい」



 真輝は何がとは言わなかった。ただじっと目を閉じて俺に身を預け、何かを考えているようだった。



「真輝、服を着よう」



 頃合いを見てもう一度声をかけると、今度は素直にうなずいてくれた真輝である。当然のように両腕を上げてみせたので、俺は苦笑しつつ彼の上半身にスウェットを被せてやった。それで切り替えがついたのか、真輝は毛布を纏ったまま立ち上がると、床に散らばった下着とズボンを身につけて大きく伸びをした。



「あったかい。春だ」

「そうだな。春だ」



 明日からまた寒い日がやってくることを、俺は知っている。それでも、俺たち二人は今日、この2DKで確かに春を感じたのだった。

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