1月 遅延

 十七時十五分きっかりに仕事を終え会社を出ると、辺り一面真っ白だった。久しぶりに積もったな、と心を躍らせたのも束の間、最寄り駅に人がごった返しているのを見て、俺のテンションは一気に下がった。



 都会の電車は雪に弱い。一時間の遅延だそうだ。



「……歩くか」



 俺は自分を奮い立たせるように呟いて一歩踏み出した。どうせ歩いても一時間くらいの道のりだ。寒い駅で一時間も立ち往生し、挙句の果て、車内にすし詰めにされるというのは、絶対にごめんだった。



 見渡す限り人間だらけなのに、雪のせいでその誰もが幻に見えた。

 途中でコンビニに寄って肉まんを買った。買い食いが好きだ。理玖には行儀が悪いと叱られるけれど。



 交通系ICで支払いをしようとスマートフォンを取り出すと、理玖から何件も着信が来ていた。支払いを済ませ、肉まんを受け取る間に、再び着信が入る。



「もしもし?」



 結局、退店前に切れてしまったので、コンビニを出てすぐに折り返す。通話はワンコールでつながった。



「ばか」

「は?」

「ばか真輝。今どこ?」

「職場近くのコンビニだけど。ってかお前、なんで泣いて……」

「真輝が電話に出ないからだろお」



 がちゃがちゃと玄関の鍵を開ける音と一緒に情けない声が聞こえてきて、思わず笑ってしまう。



「笑うな」

「ごめん。通知切りっぱなしだった」

「そもそも俺が電話する前に連絡入れろ。真輝の方が職場遠いんだから、こんなに雪が降ったら心配するだろ」

「うん。ごめんね」



 自分でも意外なほど甘い声が出た。一足先に家に着き、毛布にくるまって自分の帰りを待つであろう恋人の姿を思い浮かべると、雪を踏み分ける足も自然と速くなるのだった。

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