第28話 ヤバい女達


辺りが騒然としてきた事に気が付いたのかサイサリス達も買い物を中断しこちらに戻って来た。


「どうしたの?」

「わからん、がまぁいい事ではなさそうな予感がする」


そういうと三人とも緊張したような面持ちでサイサリスは自分の亜空間収納袋からオールレンジ兵器である【ファイヤービット】を装着した外套を取り出し、キレーネも自身の持つ亜空間収納袋から剣を取り出し装備している。


剣なんていつ買ったんだろ?と思いつつ各々が準備を整えて終わると同時に大きな爆発音と共に一人の男が足元に転がって来た。


「お、おい!大丈夫か!?」

「に、にげ…ろ‥‥アンタ‥れ‥‥‥がくる」

「おい!」


咄嗟に首元の脈を確認すると脈は有り薄っすらと呼吸による胸の上下運動が確認できたので恐らく気絶しているだけだろう。

どこか安全な場所に!とアドラステアに指示を出そうとすると男が飛んできた方から

ご立派な鎧や剣を装備した男達がゾロゾロと歩いて来た。


そして倒れている男を見てにニヤリと笑った。


「ほーう、まだ生きているのか…案外しぶといな?」

「ボス、始末私が」

「いえ、ここは私が」

「いいえ、わたくしが」

「‥‥よーしお前に任せるクーパー」

「っは!」


(えー?この流れなら最後にボスが出てきて『どうぞどうぞ』の流れだろうに!これだから異世界人はセンスが無いんだよ!)


とかなり不謹慎な事を考えているとクーパーと呼ばれた男が足元に倒れている男い近寄り間髪入れずにナイフを振りかぶったが男に刺さる直前にクーパーの腕を縛り上げる。


「…おっと!」

「ぬっ!?」

「流石にそれは見逃せないぞー?」

「邪魔を‥するな!」

「あ、待て!!!」


力尽くで拘束を引きちぎろうとするので慌てて静止するも‥‥


「ぐぁぁぁぁ!!!!」


盛大に自爆した。


「あーあ。だから待てと言ったのに‥‥」


そりゃ魔力で強化したピアノ線で拘束してるんだぞ?

内側から力を入れれば腕が輪切りになるのは当然だろ。


すると後ろに居たボスがエラい殺気を纏ってこちらに歩みよってきた。


「おいおい、お前さん‥‥何をしやがった?」

「ん~?何って俺の制止何で俺達の邪魔をした?」

「俺の目の前でヤルな。ヤルなら場所を選べよ」


いくら俺が盗賊を無慈悲に滅菌処理しているとは言え、流石に一般人を見殺しにするほど腐ってはいない。

なのでまぁ仲裁に入ったのだが‥‥


「そうか次からは気を付けよう‥‥ハハハハハ!とでも言うとおもったかぁ!?」

「うぉ!?不意打ちかよ!!!」


高笑いの直後に腰の剣で切りかかって来たが運よく擦れ擦れで躱すことが出来た。そしてその一瞬でキレーネが間に割って入りボスと剣戟を交わし始めた。


「ほーう。なかなかヤルじゃねーかお嬢ちゃん」

「‥‥剣の腕はともかく力は凄いですね!」

「クハハハは当然だろ?俺はアンタレス四天王の一人『剛腕」のクライレットだ!腕の一本は貰っていくぜ?」

「出来るものなら!!」

「てめぇらはこのガキどもを捕まえろ!!俺はこの女をヤル!」

「「「「「うぉぉぉ!!!!」」」」」


あーコレやっちゃった系かな?

とは言え降りかかる火の粉は払わないといけないし‥‥仕方ないよね!


「死ね――‥‥」

「っふ!」

「「「「え?」」」」

「この程度でご主人様達に歯向かうとは…許せませんね」

「アドラ、キレーネ。強化魔法を掛けるわ」

「はい!‥‥では行きますよ!」

「「あ、ああ、あああああ!!」」


ようやく俺の出番!と思った矢先に今度はアドラステアが割り込んで来て終いにはサイサリスの強化魔法でブースト。


さらに

「ファイヤービット展開‥‥行きなさい」

外套を翻し内側に付けられたポケットからファイヤービットが飛んで行く。

確かに意識して作ったけどまんまキュベ〇イじゃん!!と思わず突っ込みを入れてしまったよ。


「俺達をそこらの奴と一緒にするなよ?強いぞ?」

と粋がる盗賊達は確かに強いのかもしれない…が。


「ぎゃぁぁ!熱い!!」

「熱い!痛い!!あばはあ!」

「どこから火が出てるんだよ!…う、うえぎゃぁぁっぁ」

「なんだこれは!なんなんだこれは!!!」

「上じゃない!後ろだ!!!」


オールレンジ兵器の前では無力だった様でこんがり焼けた盗賊が増えてゆく。


更に集団から外れた盗賊は身体強化されたアドラステアに潰され、ボスのクライレットはキレーネ相手に遊ばれている。

身体強化前で互角だったので遊ばれるのも仕方ない。


「しかもなんかあのビット…半分くらい動きがおかしくない?」

「古代魔法に【再現】って魔法があって、動きとか魔法とかを再現するだけなんだけど、その魔法を応用して難しいことはできないけど半分は自動で動かしてるわ」

「‥‥自律制御かよ」


このロリババアは何処まで行くんだろう?

確かに理論的な話とか研究に行き詰った時に良く話してるけど…それを聞いただけで再現出来るのが怖い!

マジで激ヤバの兵器じゃん。


「…ダメ?」

「ダメじゃないですぅ!!」


そんな愛らしい顔をされるとダメでも良いって言いたくなる。


結局俺の出番は最初だけで残すは遊ばれている四天王クライレットだけになっていた。


「っち!さっきまでとは別人みたいな力だ!何者だ?」

「ただのメイドですよ?」

「この俺と互角のメイドが居る訳ないだろ!?…っぐ!」

「おや?今のを耐えますか…では」


その光景を見て思ったのだがキレーネは相手の勢いを逸らすのが非常に上手い。

足元を見ると良く解るのだがクライレットは常に動き続けているのに対してキレーネ殆どその場から動いていないしクライレットと間合いが開く場合もクライレットがはじかれている。


しかもクライレットは肩で息をしているのに対してキレーネは全然余裕そうだ。


「姉様、加勢しますか?」

「いらないわよ~」

「てめぇ‥‥」


視線で人が殺せるならもう何人も殺してますってくらいに睨みつけるクライレットを無視するキレーネ。


「舐めプやん」

「なめぷ?」

「なんですかそれ?」


気が付くと既に観戦モードの二人が横にいたようで俺の独り言に疑問を持ったらしい。

「あー舐めプを一言で言えば手加減かな。それも相手を小馬鹿にする方の手加減」

「うわぁー」

「それは…」


何とも言えない顔になる二人を見ているとやっぱ舐めプって印象最悪だよ!と思ってしまった。

とは言え流石にフォローしておかないとキレーネが可哀そうなのでフォローを入れた。


「まぁ気持ちは解るが戦略的には結構理に適ってるんだよ?相手を怒らせて冷静な判断を奪う。やり方はともかく立派な作戦だ」

「そうだけど…」

「ムムム、確かに有効な策ですが‥‥」


まだ何か言いたそうな二人だが、君たちだって無自覚だろうけど散々舐めプしてるからね?

特に制御の難しいネタ兵器を戦闘に持ち込んでる時点で完全に舐めプだから!


と突っ込むべきか否かと悩んでいるとキレーネの方も決着が付いた様でクライレットの腕が鎧ごと綺麗に切断されて宙を舞っていた。


「‥‥ふぅ」

「あが‥‥」


見事なカウンターだった。

クライレットもバカでは無かった様でキレーネが自分の力を流している事に気が付いたのか一撃一撃の威力を上げて力で押し切ろうとしたが上段からの打ち下ろしをスルりと交わされ腕を切り裂かれた…と横に居た解説のアドラステアに教えられた。


ハハハハハ!バトルマニアでもない俺が解るわけない!

俺が得意としているのは初見の不意打ちだからね!純粋な戦闘は向いてないんだよ。


どや!と一人で謎のドヤ顔をしていると、どちゃっと腕が地面に落ちる音と共にクライレットの体も地面に倒れ込んだ。



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