第29話 公王からの依頼

剛腕のクライレットを潰したキレーネがこちらに戻ってきたので拍手でお出迎えしてあげる。


「お疲れさん」

「拍手はその‥‥照れますね」

「ある意味盗賊の幹部を撃破した訳だし誇っても良いんじゃない?」

「とは言え、余り歯ごたえが無かったので本当に四天王かは疑わしいですが…」


こいつも無自覚で舐めプしてたんかい!


と内心で思っていると最初に吹き飛んできた男が目を覚ました。


「うぅ‥‥ここは?」

「目が覚めましたか?」

「あ、ああ‥‥そうだ!アンタレスの連中が!?」

「そいつらなら全員死んでるぞー」

「‥‥な!アレは剛腕の‥‥これはアンタらが?」

「そうだね」

「そ、そうか‥‥そうだ!礼がまだだったな、助けてくれてありがとう。俺はこの国で商人をしているメルローズだ」


吹き飛んで来た男、メルローズは立ち上がると頭を下げた。


「メルローズさんね、俺は隣国から旅行でここに来たオーキスだ」

「私は彼の妻のサイサリス。横の二人は雇ってるメイドのキレーネとアドラステアよ」

「「よろしくお願いいたします」」

「それでどうして吹き飛んできたのか聞いてもいいか?」

「ああ。この国の商売は盗賊団アンタレスによって管理されていて商売をするには上納金を払う必要があるんだ」


「ふむ‥‥何とも物騒な話だな。」


なんで商人の管理なんて国が行う様な事を盗賊がやっているのか疑問だが面倒な事態になっているのは解るな。


「勿論そんな話は公王が許すはずないんだが…この件は公太子様が対応なさっている様でな…誰も文句が言えん。それに文句を言おうものなら何処からか盗賊が来て粛清される」

「ふむふむ」

「商人をまとめる商会連合も既に公太子様の配下が管理しているので文句を言えば粛清の対象になるし…場合によっては一族まとめて隣の帝国へ売られるんだ!」


やり場のない怒りを地面にぶつけるメルローズ。


しかし彼には悪いが俺にはどうする事も出来ない。

公太子が盗賊と関わっている噂は耳にしていたがまさかガッツリ関わっているとは思わなかった。


まぁ公太子が何を目的に居ているかは不明だが、このまま行けば盗賊団アンタレスがこの国を牛耳る事になって公太子は『裏切ったな!』と言いながら始末される未来が見える。

そして圧政を敷き国力が落ちたところでお隣の帝国から侵略を受けてこの国は亡びるだろう。


「うーむ。テンプレストーリーだな」

「て、てん‥‥なに?」

「何でも無い、まぁ事情は察しが付いたよ。つまり上納金の支払いを拒んだから見せしめに粛清された掛けたところだった訳だな?」

「‥‥そうだ」

「勿論文句を言いたいが公太子が商人達をまとめているので文句も言えない。ならば公王にと言っても公太子が関わているので迂闊に手を出せないと」


次期公王になる公太子様を処断すれば公家の威信がガタ落ちする。それにこういう輩は決定的な証拠は残してはいないだろうし‥‥詰みだな。


とは言え俺にはどうする事も出来ないしする気も無い。

この旅の目的は大きい浮遊石を探しに来ただけなので商人の危機を救う気はないし、やり手の商人さんとのパイプは既に有るしね。


「まぁ色々苦労は有ると思うが頑張れ商人!それとこんな話を聞いた後でお礼をもらうのは気が引けるから、今の話をお礼替わりに貰っていくよ」


「そ、それは‥‥」

「じゃぁ物じゃなくて情報をくれ。この近くに浮遊石とかの珍しい鉱石や宝石が取れる鉱山はあるか?」

「すまない、心当たりはないんだ」

「そうか…まぁ知らないなら仕方ない、それじゃね」


まだ何か言いたそうなメルローズを無視してそうそうに宿に戻ることにした。

ここに留まっているとこの国の騎士団に事情聴取とかに巻き込まれそうなので退散するに限る。


まぁ浮遊石については地道に情報を集めるしかないなと思いながら騒がしくなり始めた現場を離れた。


★☆★

盗賊の襲撃から一般人を偶然にも助けてから数日は外を歩くたびに人が群がってきて終いには宿にまで押し寄せてくるので、ほとぼりが冷めるまで宿を変えようと思い早い時間に宿を出たのだが――


「どうしてこうなった‥‥」

「これは予想外ね‥‥」

「危険は無い‥‥と言いたいですが油断は禁物ですね」

「もしもの時は私が退路を開きます」


目の前にはパルドーム公国公家の紋章の入った鎧を身に着けた騎士達が居た。


「オーキス殿とお見受けする!私はパルドーム公国近衛騎士団団長のロメオ。公王陛下からの使いで参った!」

そう言うと後ろに控えていた騎士が近寄り手紙を差し出した。


キレーネが受け取り何かを確認した後、こちらに差し出したのでそのまま受け取り中の手紙を開いた。

サイサリス達も内容が気になるのか顔を寄せてくるので全員に見える様に持つ位置を調整し改めて拝読する。


「城に来い‥‥か」

「罠‥‥ではなさそう?」

「この紋章は王家の物で間違いありませんので本物ではあります」

「なら行くしかないかぁ‥‥はぁ」


内容を要約すると『名の有る盗賊を捕まえた礼をしたいので城まで来い』と言った話だ。

しかも旅人を城に招くなど異例中の異例な事で本来なら名誉ある話なのだが…確実に厄介事に巻き込まれそうだし、噂の公太子様の影もちらつくので出来れば無視したい。

が、自国の王では無いとは言え国のトップからの呼び出しを受けて無視するのは外聞が悪く下手すれば不敬罪に問われる。


「仕方ないから行ってくるけど三人は?」

「勿論行くわ」

「当然ですね」

「行きますよ~」

「そうか…なら気は進まないが行くか」

「ではご案内します」


ロメオ団長の案内に従いお城に行くと謁見の間とよばれる王を面会する部屋ではなく応接室に案内された。


なんでも今回の謁見は非公式で行われるので応接室で会う事になったと説明を受けたが場所が変わるだけで会う人は同じなのでどうっちでもよかった。

しかし面倒な礼儀作法を意識しなくて済む分こっちの方が気楽でいいなと思っていると公王が姿を現した。


この国の民ではないので跪く必要は無いが踏ん反り返っているのもダメなので立ち上がり頭を下げる。


「そなたがオーキスか」

「はい、旅人のオーキスです。そして横に居るのが妻のサイサリスで後ろに控えるのが使用人のキレーネとアドラステアです」

「はじめまして公王陛下、お会いできて光栄ですわ」


横のロリババアは何処でそんな作法を身に着けたのかとても様になっていた。


「余がパルドーム公国 ヒルベルト・ロム・パルドームである」

「私は宰相のオーバルです、今回ご足労頂いたのはオーキス殿に依頼があるからです」

「依頼‥‥ですか?(お礼の話は何処に消えた?)」

「盗賊団アンタレスの討伐です」

「‥‥失礼ですが理由をお伺いしても?」

「ここからは私が話そう。其方はこの国の実情を何処まで知っている?」

「先日助けた商人から触り程度の話を聞きました」

「そうか‥‥この国の商人達は盗賊団アンタレスによって管理されている。そしてそれを主導しているのが我が不肖の息子だ。商人達のまとめ役を奴に任せたのだがいつのまにか裏で盗賊と組みしていた。勿論討伐隊を編成したが‥‥失敗した」


だろうね!じゃなきゃこんな事にはなってないだろうよ!とは言えないので神妙な顔で頷くだけにとどめる。


「では公太子様を止めればいいのでは?」

「奥方の言う事ももっともだが奴は表向きは一切関わっている事になっていてその証拠も無い。しかも今回捕まえた剛腕のクライレットも処刑すべきと発言している程だ。なので証拠も無く糾弾する事は出来ない」

「そう…ですか」

「なので腕の立つ其方達ならと思い声を掛けた訳だ」


‥‥うん。

ぶっちゃけ全部予想通りでした。

国の騎士では力不足で盗賊を討伐出来ないし公太子は公太子で怪しいけど証拠不十分で起訴出来ない。

なので外部から腕の立つ人を探したが…国土の小さい公国に来る強い人が居ないので今まで手をこまねいていた所に俺達が登場した訳だ。

そりゃ逃す手はないわな。同じ立場なら俺もそうするし。


とは言え殆ど何も知らない状態なのに安請け合いする気は無いし、そもそもこの国に来たのは浮遊石を手に入れる事なのでソレに関係しないなら受けるつもりはない。

危ないし。


「お話は分かりました。ですが無償でと言う訳にはまいりません」

「其方の望む物を褒美としよう」


おぉ~人生で一度は言ってみたいセリフが出たぞ!しかし望む物か…それなら浮遊石を褒美に貰っても言い訳だよね!


「ではこの国で一番大きい浮遊石を頂きたい」

「‥‥浮遊石とはあの浮かぶだけの石の事か?」

「はい、その石です」

「そんな石でよければ有るだけ持って行くといい…では?」


「盗賊団アンタレスの討伐依頼、お受け致します」













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る