第22話 ヤンデレ気質?
宿に戻るとアドラステアに出迎えられた。
「お帰りなさいませ」
「ただいまー」
「うん、ただいま」
「ご無事で何よりです」
先程から俺の腕に引っ付いているサイサリスごと備え付けのソファに腰掛けぬぁ~と背もたれに体を押し付ける。
「まさか俺が攫われるとは夢にも思ってなかった!」
「全くよ」
「その通りですね、ところであの火柱はサイサリス様ですか?」
「火柱!?ちょっと待て!あの時一体何したんだ!?」
バツの悪そうな表情で顔を背けるサイサリスを問い詰めようとすると、彼女自ら繋いでいた腕を離し俺の胸に顔をうずめた。
顔を見られたくないのだろうか?
そして胸元からくぐもった声でぼそぼそと話し始めた。
「宿を飛び出して、ポンポン商会の本店に行ったわ」
「うん」
「そしたら金を出せって言うから、まず人質の安全を確認させろって言ったわ」
「うんうん」
「そしたら金が先って煩いし、私の話を聞いてくれなかったわ」
「うんうん」
「だから偶然持っていた金貨1枚を投げてやったわ」
「…うん?」
「そしたら相手が『少ないぞバカにしてるのか?人質を殺すぞ?』って言うから」
「言うから?」
「我慢の限界だったから‥‥蒸発させたわ」
「‥‥‥‥蒸発か」
「うん、綺麗になったわ」
「そうか‥‥‥綺麗になったか」
「頑張ったわ‥‥褒めて」
「…ウン」
胸元に引っ付いているサイサリスの頭を撫でる俺の顔は多分引き攣っているのだろう。
というかアドラステアの顔も引き攣ってるし。
「と、ところでご主人様は何処に囚われて居たんですか?」
「お、俺?俺は‥‥多分ポンポン商会の店舗の地下だと思う」
「‥‥あの火柱の中よく無事でしたね?」
「あー実はあの時は瓦礫から身を守るために必死だったからな」
「でも良かったですよ、これでご主人様まで蒸発してたら…」
悲惨な未来を想像してしまい二人してゴクリと生唾を飲み込んだところで胸元から――
「その時は王都を蒸発させて私も後を追うわ」
――ヤンデレ発言が飛び出した。
うん。この話はもう止めよう。
自分の死が切っ掛けで天変地異が起こるなどと思うと考えたくないぞ!
ヤンデレ恐るべし。
翌日、事件の顛末を説明するためにマーカス達と会う事になった。
「とりあえず無事で何よりだ」
「ああ、お陰様でな。それと助けに来てくれてありがとう」
「本当に大した事はしてないんだが‥‥なんかすまんな」
「?」
「実はな‥‥」
話しによると爆心地の中心で黄金の鎧を着た騎士が二人の子供を地面から助けだす場面を目撃した人が結構な数居たそうで、『卑劣なポンポン商会の罠にも負けない騎士の中の騎士』や『囚われの子供を救い出す勇者』などと言われているそうで、今回の事件を解決したのがマーカスと言う事になっているそうだ。
「実はクレーターの中心で叫んでいただけなんだが‥‥」
「まぁそこはいつもの事だから一切気にしてないぞ」
正直に言えばこれはありがたい話しでもある。
マーカスが目立つことで未だに引っ付いているこのロリババア様がクレーターを作った張本人とは誰も思わないだろうしな。
「それでポンポン商会は?」
「その話しは私が説明します。まずは面倒な事に巻き込んでしまい大変申し訳ございません」
「いえ、実行犯に西の盗賊も居るのでこちらも無関係ではありませんから」
「そう言って頂けると幸いです。それで今回の拉致事件のですがポンポン商会と他の商会が手を組んで我が商会を陥れる為に起こした事件で、実行犯は一部商会の組員と西の盗賊の残党です」
やはりか。
ハウンドって単語も出て来たので汚れ仕事は盗賊の担当だとは思っていたが。
「そしてオーキス様が囚われていたポンポン商会ですが‥‥蒸発しました。しかし幸いにも商会長や主要な幹部はベーグル商会に逃げ込んでいたそうで、今はポンポン商会に関係した商会に監査が入っていますので捕まるのは時間の問題です」
「そうですか」
「そして謎の大爆発についてですが蒸発した盗賊達が自決用に仕込んだ違法な魔道具の仕業と言う事になりました」
「それは良かったです」
欺瞞工作する時間が無かったのでどうしようかと思っていたのだが、裏で手を回してくれたらしい。
「それと偶然の出来事ではありますが、今回の件で褒美が出る事になりました」
「褒美ですか?」
「はい、今まで何かと理由を付けて監査を逃れていた商会にも強制的に監査を入れることが出来たのでお詫びも兼ねて国から褒美が出るそうです」
「なるほど・・・そりゃぁクレーターを穿つ程の魔道具が王都に有るとなれば有無を言わさず調査出来ますしね」
「ええ、ですので今回賜る褒美についはご迷惑おかけしたお詫びとしてお二人の望む物をと言う事になりまして、ご希望をお伺いしたく」
「そうですか…あ、なら亜空間収納袋を人数分欲しいです」
「亜空間収納袋ですか?判りました。ソレを褒美として申請を出しますね」
いやーラッキーだわ。
とは言えそれ相応の怖い思いはしたので何とも言えないけど・・・・まぁ結果良ければ全て良しって事で!
「あと特に何もなければ数日後に騎士団の聴取が有りますので外出の際には宿の従業員に一言お伝えをお願いしますね」
「あれ?外出は良いんですか?」
「問題ありません、とは言え人通りの多い場所を選ぶ事をお勧めしますが」
いや。
今回の件だって人通りの多い場所で起きた事件だぞ?とは言え忠告は素直に受け取っておくよ。
まさか王都到着初日に攫われるとは思って無かったし。観光もしたいからね。
★★★★★★★★
事件から数日経ち、近衛騎士団から事情聴取を受けていた。
「捕まっていた時の事を教えてほしい」
「牢屋の様な場所に囚われていて足と手を拘束され、魔封じの首輪をされていました」
「子供相手にそこまでするのか‥‥」
「それで時々様子を見に来る黒ローブの男がポンポン商会とかハウンド様とか言ってました」
「やはりか‥‥それでどうやって外に?」
「恐怖に震えていると突然天井が崩れて来て‥‥気が付いたら黄金の鎧を着た人が目の前に居ました」
「黄金‥‥まさか首狩りのマーカスか?」
「顔までは見えませんでしたがあの兜は間違いなくマーカス様です」
「ふむ…子供でも従業員には変わりないから助けたと言っていたが‥‥ほんとだったか」
「はい」
「ところで横にいるお嬢さんも捕まっていたのか?」
横にいるサイサリスに視線を向ける近衛騎士に彼女はすまし顔で語っていた。
「はい、大切な彼を目の前で攫われたので取り返したい一心でポンポン商会に向かいました。そして大切に貯めた金貨1枚を差し出したのですが‥‥相手にされず終いには…」
「っく!卑劣な奴らめ!‥‥ゴホン、ところで二人はどういった関係なんだい?」
「婚約者です。今は亡き両親が私に残してくれた絆です」
「婚約者だったのか!それで彼のために貯めたお金を差し出したと言う訳か‥‥わかるぞその気持ち!」
そこから近衛騎士の篤い語りが入り、適当にはいはいと頷いていたのが災いし最終的にはこうなった。
――ポンポン商会は盗賊と手を組み私利私欲を貪り、将来を誓っい会った将来有望な少年少女の仲を引き裂き人身売買に手を染める卑劣な商会である。
しかしその小さな輝きを救ったのが首狩りのマーカスだ。
彼はポンポン商会の仕掛けた罠を正面から打ち破り囚われた子を救出する偉業を成し遂げた勇者である――
その噂を耳にしたマーカスはまたしても頭を抱えていた。
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