第20話 オイオイ、嘘だろ?


「そろそろ到着だ」

「おぉ~デカい城壁だ」

「大きいわ」

「公国とは桁違いの大きさ…すごい!」


目の前にそびえ立つ立派な城門を見て始めて都会に出てきた田舎者の様な反応をしながら王都内に入る為の審査を受けていた。


「次は…マーガレット商会に噂の『首狩り』か」


門番に商会証と叙爵の手紙を差し出すと辺りが騒然となり『あれが首狩りか』とか『派手な鎧だ!』とか『オイ!あんまり騒ぐと首が飛ぶぞ!』とかマーカスの異名は王都でも有名な事が伺い知れた。


しかし裏の事情を知らないアドラステアが首狩り=オーキスであると認識していた様で主人を褒め称えていた。


「ご主人様は王都でも有名なんですね!」

「違うぞ。後で話すけど首狩りとはマーカスの事だ」

「そうなんですか?でもあの方はご主人様印の装備の印象が強すぎてビックリ人間って感じです」

「そうか」


これでもう一つネタ装備が有るって話したらどうなるのかな?と思いながら審査が終わるのを待って居ると「開門!」と声が聞こえたので無事王都に入る事が出来た様だ。


「「「おぉ~」」」


城門を潜るとそこは大勢の人が行き来きしていて、色々なお店が軒を連ねていた。

馬車の窓から見を乗り出していると、マーカスがゴホんと咳払いをした後今後の予定について話始めた。


「予定の確認だがまず滞在する宿に向かう。その後は別行動になるが俺達は3日後に叙爵式があるからそれまでは商会の挨拶周りだ。まぁ宿は同じだから何かあったら知らせてくれ。それでお前さん達は?」

「基本的は観光だな。特に冒険もする予定はないからな」

「出来れば大人しくしていて欲しい」

「…絡まれなければな」

「そこは祈るしかないか……まぁともかく叙爵式が終わり次第帰る予定だからそれまでは本当に大人しくしていてくれ!」

「判った判った。極力努力するよ」

「ホントに頼むぞ!?」


顔をグイっと近づけて念押しするマーカスだったが念押しがムダになったと知るのは少し後の事だった。



宿に荷物を置いてマーカス達と別れた後、王都の繁華街に来ていた。


王都パスカル、国内最大級の都市で中心には王族が住まう大きなお城が有り、街中には王国近衛騎士団が警邏しており治安も良い。

とは言えどんな所にも影はあり中心から外れる程無法地帯となり、王都の外縁にはスラム街もあるとの噂だ。


「まぁ観光目的だし基本は治安の良い場所で過ごそう」

「そうね、それがいいわ」

「全くですね!わざわざ危ない所に行く必要もありませんから」


(それに王都ならグリーンなお店でも亜空間収納袋は売ってるだろうしな!)


実は前々から亜空間収納袋は欲しかったのだ。

普段はアドラステアに袋を渡しているのでこういった全員でお買い物する場合などは良いがアドラステアが居ない時に少し困る。

勿論返して貰えばいい話なのだが、やり取りが面倒なので人数分買い揃える事に決めたのだが、便利な物なのでなかなか売りに出されないが王都の様に人が集まる場所なら可能性が有る。


なので女性陣の買い物のついでに情報を仕入れつつお店を回っていた時だった。


「見つけたぞ!このガキだ!」

「捉えろ!」

黒いローブで顔を隠した怪しい集団がお店のドアや窓を破壊しながら押し入って来た。


想定外の出来事でその場で固まっている隙に腹にパンチを食らい、意識が朦朧とするなか近くにいたアドラステアの腕に魔力の糸を括り付けた所で意識が途絶えた。


★★★★★★★★


「‥‥ここは?って痒い痒いかゆい!」

意識が覚醒すると途端、首の痒みに襲われた。

恐らく例の首が痒くなる魔封じの首輪を付けられたのだろう、ぼりぼりと掻き毟りたい衝動に駆られ腕を伸ばそうとするとガチャガチャと金属がぶつかる音がするだけで腕が動かなかった。


「やっぱり手枷も付けられたか…仕方ない」


痒みを我慢しながら魔力で糸を三本程生成する。糸が出来たらその糸を三つ編みの要領で編み込み紐にする。紐が出来たら結び目を作る。


「よし‥‥最後に首輪の隙間に通して‥‥オホ!あぁ~いいね~感覚的には孫の手でカリカリしてる感じだ、イイね!」


手が使えないなら別の物を使えばいいじゃない!と思い付きで始めたが存外上手く行った。そして魔力紐で首を掻きながらここはどこかな~と辺りを見渡すと古式ゆかしい牢屋だった。


(しかし攫われたのが俺とはホント予想外過ぎるわ!てっきりトラブルに巻き込まれるのはサイサリスかアドラステアだと思ってたのに。ともあれまぁ捕まっちゃったモノはしょうがない。今は脱出と出来れば攫った奴らの情報が欲しいな)」


枷を壊すことは簡単だが、なんの情報もないまま逃げたとして、逃げ先で敵100人と遭遇とかになるのは避けたい。相手が盗賊程度であればどうにか出来る自信はあるが、騎士団レベルが出てくると歯が立たないなので今は情報が欲しい所だ。


そう思って居るとここからは見えないがギィィと扉の開く音が聞こえてローブの男が現れた。


取り合えず煽ってみれば何か情報をポロッと口にするかもしれない、そう思い壁に寄りかかりながら横になりケツをポリポリしながら『退屈っすね~』と言った感じを出した。


そしてその姿を見た黒ローブの男がガン!と鉄格子を叩く。


(なめ腐った態度が気に入らないんだろ?ハハハハハならもっと舐めプしてやろう!)‥‥っふ」

「貴様!」

黒ローブの示威行為を鼻で笑ってあげると怒気を孕んだ声が牢に響く。

「(効いてる効いてる!よーしトドメは必殺『無視攻撃』だ!)‥‥っふ」

お前に興味は無いと言った感じで黒ローブに背中を向ける。


「‥‥立場を解って居ないようだな?ここで死ぬか?」


コケにされてプッツんきているのだろう、ついに脅しをかけてきたので更に煽る。

「ククク‥‥」

「急になんだ?」

「ククク‥‥ハーッハッハッハ!!」

「!?な、なんだ急に!!」

「いや?君たちも無駄な事をしたなと思ってね」

「無駄だと?」

「ああ、?」

「そ、そんなハズは‥‥」


うーん。まさかこんな適当な演技なのに通用するとは思っていなかったのでこの後のセリフを考えていなかったけど‥‥アドリブで行けちゃう?


「それで?俺を処刑でもするか?‥‥まぁそんな事をすれば奴が黙っていないぞ?うん?」

「っく!貴様は貴重な交渉材料だ、殺しはしないが‥‥やはり鍵は首狩りの方だったか!」


悔しがる黒ローブの男を見ながら思った。全て適当な話しなんだけど見事に情報を吐いたなと。

(取り合えずマーガレット商会に関係する団体なのは確定だけど・・・・)


「ま、まぁいい。今頃お前の主の元に手紙が届くだろうしな」

「手紙?」

「ああ、そうだ貴様らのせいで我らポンポン商会は憂き目にあったんだ!」

「ポンポン商会?」

「ポンポン商会だけじゃない!ハウンド様と懇意にしていた商会は軒並み制裁を受けた!全て貴様らマーガレット商会が起こした事だ!」


(ハウンド?ハウンドって確か盗賊のボスだった気がするんだが…ああ!そう言う事か!ポンポン商会達は裏で盗賊と繋がっていて都合の悪い事はすべて闇に葬り去っていた訳ね。なのにマーカスがハウンドを捕まえちゃったから芋ずる式に関与していた商会が断罪されたと。なので商会の下働きっぽい俺を誘拐しマーガレット商会に復讐するつもりと)


「え?てかそれ単なる逆恨みじゃない?」

「ああそうだ!逆恨みだ!何が悪い!?それに!森に仕込ませた仲間も捕まった!」

「あーあの人達ってお仲間だったのか!」

「そうだ!」

「そうか‥‥ところでさぁここ何処?」

「‥‥教えると思うか?まぁいい暫く大人しくしていろ!」


そう言うと黒ローブの男は踵を返して部屋を出て行った。


「しかしあのアホな男の話しがホントなら今回の誘拐事件はポンポン商会の仕業で西の盗賊の残党が実行犯‥‥しかしなんとも敵の多いことですねマーガレット様?」


頭の中でオホホ!と笑うマーガレットを思い浮かべつつさてどうしようかな?と考えたところでアドラステアの腕に魔力糸を巻き付けたのを思い出した。


(初めての試みだが上手く行けば糸電話的な遠距離通信が出来る。えーっと?まず声の振動を魔力で包んで減衰しない様にして‥‥っと!よし出来た!)


「ゴホン、あーあー・・・・では!『こちらラット、こちらラット、HQ応答せよ。繰り返す。こちらラット、HQ応答せよ』」


暫く待っても応答がないので流石にぶっつけ本番じゃぁ無理か!済まない大佐!と心の中で謝っていると奇跡的に返事が返ってきた。


「…こ…ごしゅ‥さまで‥?‥‥あれ?‥‥‥聞こえてる‥‥な?」

「聞こえてるよー」

「やっぱ‥‥しゅじんさ‥‥!い…ど‥‥るで・・・!?」

「こっちは無事だ」

「よかったー無事なんですね!」


(おお!急にクリアに聞こえる様になった。アドラステアがコツを掴んだか?)


「それでそっちの状況は?」

「‥‥‥まず謝っておきます。すみません。全力で止めたのですが力及ばず」

「何を止めたんだ?」

「サイサリス様です」

「‥‥聞こえなかった。悪いけどもう一度教えてくれ」

「つい先ほど盗賊からマーガレット様宛てに手紙が届きましてその内容が‥‥所謂『脅迫状』でして…内容を知ったサイサリス様が飛び出していきました。魔力を漲らせて」


その話しを聞いて脳裏に氷河期が訪れた平野を思い出していた。


「なぁ‥‥」

「はい」

「マズイのでは?」

「はい、ですから先に謝りました。大災害を解き放ってしまい申し訳ありませんと」

「おい!誤れば済む問題じゃないだろ!王都が氷漬けになるぞ!?」

「あれ?きこえが…悪いですね?」

「あ、おい!まて」

「あーすみません、とうとう魔力切れできこえないです!お帰りをお待ちしてますので!それじゃ!」

「おいこら!‥‥はぁ」


都合の悪い時はバッテリー切れを理由に電話を切るのは何処の世界でも一緒なのかと思った。

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