第二章 パルドーム公国へ
第17話 押しかけメイド
新生活にも慣れ始めた頃、熱血衛士長さんへのお礼に最高の魔道具を作る事にした。
「奴からの情報でサイサリスに出会えたからな、素晴らしいネタ装備を作ってあげよう!」
そう意気込んで超ド派手なネタ装備を製作している時に一人の女性が屋敷を訪ねて来た。
宗教の勧誘か?と思っていたが、なんでもマーガレットの紹介を受けて訪ねて来たそうでオーキスに用が有って来たそうだ。
なので会って見る事にしたのだが…
「私を雇って下さい!お願いします!」と開口一番にそう告げてガバっと頭を下げた。
「「‥‥‥」」
「私を雇って下さい!お願いします!」
「とりあえず話しを聞かせて欲しい」
「判りました!実はですね…」
思った以上に壮大な話しだったので3、4回お茶を入れ直す事になったが要約するとこうだ。
彼女は元々隣国であるパルドーム公国のとある貴族様の家で働くメイドさんだったのだが、脱税の決定的な瞬間を目撃してしまい、脱税の濡れ衣を着せられて多額の借金を背負わさた挙句に盗賊に攫われてしまった。
彼女を攫った盗賊と言うのが北の盗賊さんだったらしく、いつだったか貯金箱だヒャッホー!と壊滅させた奴らで、彼らの根城に捕らわれていたのが目の前の彼女だった訳だ。
「どーりで見覚えがある様な顔だったのか!」
「え?忘れてたんですか!?」
「…うん」
「そ、そうでしたか‥‥」
「あれ?でもあの時沢山の金貨持って帰ったよね?」
(覚えている限りでは大袋にパンパンに入った金貨をサンタの様に担いでいた記憶があるのだが‥‥‥実は見間違えだったか?)
「ええ、そのお金で不正を働いた貴族を断罪して一家そろってこの国に来ました!一応まだお金は残ってますが、流石に働かないと飢えて行くだけなので、メイドとして働ける所を探していた時にマーガレット様からオーキス様の話しを聞いて押しかけてきました!」
(押しかけたって認識は持ってるのかい!まぁともあれ前々からメイドさんが欲しいとは言ってたし調度いいと思うけど…)
「サイサリスはどう思う?」
「良いと思うわ。自ら押しかけて来るならやる気も十分だろうし」
「そうか…よし!採用!」
「わー!ありがとうございます!早速荷物を持ってきますね!」
「ん?荷物?」
「はい、基本メイドは住み込みなので!」
「そ、そうか…(部屋が開いててホント良かった!)」
「では一旦失礼しますね!」
部屋を飛び出してゆく彼女を見送りながら、これで家の管理が楽になるな~と思いながらぬるくなったお茶を流し込んだ。
押しかけメイド――名前はアドラステア――が住み込みで働く様になって暫く経った頃、オーキスは悩んでいた。
アドラステアは優秀だ。
家事は勿論の事、来客時の対応や家の資産管理に更にはサイサリスの護衛もこなせる程のスーパーなメイドさんだった。
尚、戦闘力はかなり高く接近戦では熱血衛士長に迫る程で、この前もサイサリスと買い出しに行った時にチンピラに絡まれたので成敗したらしい。
「サイサリス様の強化魔法が有ればそこらの騎士よりは戦える自身があります!」と本人も言って居たので護衛としては申し分ないし同性なのでデリケートな買い物の時にも安心して任せられる。
「なので給料を幾ら渡すかだが・・・・・・・悩む」
前にそれとなく給料はいくら欲しい?と聞いたのだが、衣食住が整っているので給料はいらないです!と言われてしまったので結局希望額が聞けずにいた。
一応相場も把握しているがそれだと近いうちに給料が安いので辞めます!と言われてしまいそうな額なので個人的には増額して渡すつもりだが・・・・・
「金貨5枚じゃ少ないだろうか?・・・・・しかし・・・・ん~」
暫く悩んだ末に面倒になったので正直に話すことにした。
「お待たせしました!それで話しとは?」
「・・・・・・よく聞いて欲しい」
「は、はい」
「何枚欲しい?」
「・・・・・・は?」
「給金として何枚欲しい?」
「えー?またその話しですが?不要ですよ?」
「いや、ほら?欲しい物あるでしょ?」
「ん~とくには」
「いやいや、服とか嗜好品とかあるでしょ?」
「ないですね。生活に必要なモノは全て経費で落とせって言ったのはご主人様ですよね?」
「それは必要でしょ?」
まぁ異世界人なのでこの世界の常識とは少しズレている事は承知しているが住み込みで護衛の仕事まで頼んでいるのに対価が衣食住だけではNGと断固反対した結果、生活に必要なモノは経費にしろと言う事で折れて貰ったのだ。
「あの?何故そこまで拘るのですか?」
「え?だって安い給料だとすぐ辞めるって言われるじゃん」
「はい?」
「アドラステアは優秀なメイドさんだし出来ればこのまま働いて欲しいなと思ったら報酬をアップするのは当然でしょ?」
「あーそう言う事だったんですね!」
「?」
「いえ、給料を増額するから人殺しでもして来いって言われるのかと思って」
「いやいやいやいや、そんなの自分でやれば済む話しだから必要ないぞ?」
「それはまぁそうですが‥‥‥ともかく!いきなり増額されるとこちらは警戒するんですよ」
「あーそれは盲点だった~」
確かに闇バイトも報酬が高いことで有名だしね!忘れてたよ!
ともあれこれで誤解も解けたことだし、改めて。
「これは仕事振りへの評価だから受け取りなさい」
金貨10枚の入った袋をずいっと差し出す。
「あの」
「なんだ?」
「コレは?」
「ボーナスだ」
「ボーナス?」
「賞与ってこと」
「不要です」
「その意見は認められない。なので受け取るべき」
「却下です。」
「ぬぁー!いいから受け取れ!」
「嫌です!」
「あーこのわからず屋め!!!」
「わからず屋なのはそっちでしょ!?」
こうして醜い争いは暫く続き、最終的にサイサリスの雷が落ちて事態は収束した。
一応アドラステアはメイドとして働けなくなるまでウチに努める気だった様で無駄な心配をしたオーキスの空回りだったがずーっと悩んでいた事を知っているサイサリスがアドラステアを言い包め金貨一枚が給料となった。
そしてその夜、寝る前に反省会が開かれていた。
「今度から相談しなさい、いいわね?」
「ハイ」
「あと、勝手な行動も控える様に。良いわね?」
「ハイ」
「まぁ今日はこのへんにしとくわ」
「ハイ、ハンセイシテマス」
「でもアナタの気持ちもわかるわ」
「?」
「アドラステアが優秀って話しよ、買い物の時も助かってるしね」
「だろ?まぁ本人も今の生活を気にいってくれてるのが幸いだったけど」
「そうね、まぁ他の所と比べてもかなり優遇されてるのは事実だし、私はそうそう辞めるとは思わなかったけど」
「それはそれだ」
「もう・・・・まぁいいわ、じゃぁおやすみ」
「おやすみ」
(実は内緒にしている理由がもう一個有るんだけどね!優秀なのは勿論だけど、サイサリスとアドラステアが並ぶと姉妹に見えるんだよね~髪色もシルバーとプラチナブロンドで似ていて『尊い』のだ。なのでそれが見れるだけで心が潤うのがイイ!その為に金で引き留めてる作戦だったのだが‥‥まぁ上手く行ったのでヨシとしよう)
サイサリスの暖かさを感じながら目を閉じ夢の世界へ旅立った。
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