第16話 新居
サイサリスを伴って拠点としている廃墟に戻って来てからすぐに色々な問題が発生した。
一番大きな問題になったのは部屋数の不足だ。
今までは一人暮らしだったので魔道具を作る部屋と生活する部屋が有れば問題なかったが、彼女が転がり込んで来たので荷物を置くスペースが無い。
「流石に狭いわ」
「ですよねー!この際贅沢は言わないから今すぐ住める物件をマーガレット様に手配して貰おう!」
魔道具の売り上げを全て預けているのでそのお金で新居を探して貰う事にした。それも早急に。
そして手紙にて新居探しの依頼を出した2日後にマーガレットお付きの魔道具好きメイドが迎えに来た。
「オーキス様!新居にご案内します!」
「は?‥‥え?」
「お話はマーガレット様より聞いております!そして準備は出来ていますのでさ!行きますよ!!あと是非サイサリス様もご一緒に!」
「え?ええ‥‥準備するので少し待って欲しいわ」
「はい!では表でお待ちしております!」
そう言うと踵を返し部屋を出て行くメイドさんの姿になんで毎回、事前連絡をくれないのか?と考えていると横から「ほら、良いから準備するわよ?」とサイサリスに促されなたので、納得行かない気持ちをぐっと押し殺して他所行きの服に着替え、外出の準備をした。
「到着しました!こちらです」
馬車で揺られること5分。そこそこ立派な屋敷の前で馬車が止まった。
「え?ここ?」
「はい!‥‥ではご案内いしますね!」
立派な門を潜ると見覚えの有る女性が屋敷の玄関前に立って居た。
「ようこそお越し下さいましたオーキス様、サイサリス様」
「マーガレット様‥‥おひさしぶり…でも無いですね」
「そうですね、つい先日もヒーターの納品でお会いしましたしね、ところでそちらが?」
「あ、はい。盗賊の拠点に囚われていた所を助け出したサイサリスです」
マーガレットに紹介するとサイサリスは一歩前に出て胸に手を当てて頭を下げた。
「サイサリスです。マーガレット様のお話は伺っております」
「あら、どんな話しをされて居るのか気になりますね!出来ればじっくりとお話させて頂きたいですね」
「ではお時間が有る時に」
「判りました。その時を楽しみにしておりますね」
「マーガレット様そろそろ」
「そうでした。では中をご案内します」
屋内に入るマーガレットに続いて中に入るとそこそこ大きい玄関ホールにお出迎えされた。
「この屋敷は2階建てで1階には大部屋が一つと厨房や風呂といった生活に必要な設備が備わっています。そして2階には主寝室と個室が3個あります」
「因みに1階は大きさの割に部屋数が少ないのは何か理由があるのですか?」
「実はですね少々特殊な事情がございまして‥‥」
話しを聞くと何とも評価しづらい話しだった。
この屋敷は少し前に完成し、ある貴族が買う予定だったそうで面白い構造をしていた。
それは主寝室から1階の大部屋に降りる階段が取り付けられている事だ。この機能を付けた設計者曰く
『有事の際には主寝室からすぐに逃げられる様にした』と豪語していたそうだが逃げ先が何故家の中なのかが不明だ。
因みに有事とは女性関係の事でお遊びが発覚しそうになった際に相手を1階に退避させることが出来ると設計者も依頼した貴族も大喜びしていた。
しかしどうせ作るならせめて外に繋がる様にすれば良いのでは?と思ったが、設計者も完成してからその事に気が付いたそうで頭を抱えていたそうで作り直しをするかどうかで悩んでいた最中、残念な事に購入予定だった貴族が女性関係のトラブルで身を破滅させてしまった為この屋敷の購入が白紙になり、一般向けに売り出しされたが元が貴族用で設計されていたので値段が高く売れ残っていた所をマーガレットが買い上げたそうだ。
「なるほど。何とも言えない理由ですが便利は便利ですね」
「はい。理由はともかくとして利便性は高いと思います」
「そうね。理由はともかく」
サイサリスもマーガレットも設計思想には共感出来なかった様だが、利便性が有るのは認めている様だ。
「ともあれ、他は堅実的な作りですのでご安心下さい。次は二階の‥‥」
その後の内見ではこれと言った驚きの設備は無くマーガレットの言う様に本当に堅実的な作りだった。
貴族が買う予定で作られているので隠し扉とかを期待したのだが、残念ながらそう言った類の設備は無かった。
うーん、残念。
「説明は以上になりますが、どうでしょうか?」
「サイサリスは?」
「私は良いと思うわ」
(サイサリスも特に不満は無さそうだしここに決めるか。後は金額だな)
家の価値と言うと結構ピンキリなイメージがある。
過疎地では豪邸が建つ金額でも都内では手狭なマンションしか買えないと言った具合に土地価格には大きな差が有る。
なので自分の感覚で言えば屋敷と呼んでも差し支えない程の大きさに内装も拘りを感じさせる作りなので結構な額になると思っている。
勿論、手持ちの資産としては盗賊から強奪した金貨をたんまり持っているので心配はないが…
(前世が一般的な人間からすると家買うのって一大決心が必要なんだよね!金額的に大丈夫と思って居ても気後れするが…えぇい、ままよ!)
「とてもいい場所で心惹かれますが‥‥お高いんでしょ?」
なんとも締まらない言い方だが、俺としては精いっぱいなんだ!判って欲しい。
と心の中で言い訳を並べつつマーガレットの反応を待つ。
「確かに高いのは高いですが‥‥引き渡し前に問題が起きてしまったので相場より割安ですよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、それに今お預かりしているお金でお支払い出来ますよ?」
「そうですか!なら支払いはそれでお願いします」
ハハハハハ!
魔道具の売上金を預けっぱなしにしていたのを忘れていた。
ともあれ売主が問題ないと言うならこちらに文句はないので早速購入の手続きを進める事にした。
「では本日よりこの屋敷はオーキス様の物件となります。ご購入ありがとうございました。」
ややこしい手続きなどは無く、契約書一枚にサインをして終わった。
それに内容も小難しい話しではなく『誰が、いつ、何を、誰に売った』かが書かれているだけなので契約書というか領収書と言った方が正しいかもしれない。
生前では家を借りるのにも何枚も契約書にサインをしたな~と懐かしんでいるとサイサリスに肩を叩かれた。
「ん?なに?」
「引っ越しね」
「‥‥そっか!家を買った事で頭が一杯だったけど引っ越しも必要なのか」
「そうよ、もしかして忘れていた?」
「家具とかベットとか既に揃ってるから忘れてた」
備え付けの家具が有る家って引っ越しなしで住めるじゃん!と思うのは俺だけだろうか?
と考えつつ拠点に戻り荷造りを始めたのだが‥‥亜空間収納袋と言う物が有るので荷物の運搬がとても楽だ。必要なモノだけ手当たり次第に袋に放り込むだけなので『まるで夜逃げだな』と思いながら引っ越し作業を続けた。
辛い肉体労働をしなくて良いのは助かるけど異世界の引っ越しってホント情緒が無い!と思ったのは内緒だ。
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