第15話 彼の名は…


サイサリスを解放し屋根の吹き飛んだ屋敷で一夜を明かした翌日、屋敷のキッチンで朝食を作っていた。


「ご機嫌ね」

「お?早かったね」

「そう?ただ体を洗うだけだし…こんなものでしょう?」


サイサリスが何日も風呂に入ってないと言うので屋敷の風呂場に放り込んだ。


盗賊のくせに一丁前に石鹸などが有ったので遠慮なく使わせてもらった。

それに食材もたんまり残っていたのでこれも拝借し朝食の準備をしていたのだ。


「これを貴方が?」

「まぁね、孤児院でも食事の用意は手伝ってたし‥‥よし出来た。食べようか?」

「ええ」


孤児院を出てからは殆ど一人の食事だったので他人と一緒に取る食事は久しぶりだ。

対面に座るサイサリスが黙々と小さい口を動かして食事を進める姿を見て、昨晩聞いた身の上話を思い出していた。


それは昨晩の事だ。


「お互いの事を知るにはまず自己紹介から始めよう」

「?」


唐突な話題提供にサイサリスは不思議そうな顔をしていたのだが、関係性はどうあれ仲良くなるには自分の事を知って貰うのが手っ取り早いと説明した所、「その通りね」と納得してくれたので自己紹介を始める事にした。


「改めて俺はオーキス、この街で魔道具師をやってるしがない男で特技は盗賊や殺し屋からお金を奪う事だ。今はこの街の北側にある廃墟でひっそりと暮らしてる」

「魔道具師だったのね、それにしても貴方の魔力制御力は凄いのね」

「自慢じゃないがこの国の宮廷魔導士でもやっていける実力はある」

「なのに魔道具師を?不思議な人ね」

「まぁよく言われるよ。あとこんなナリだが俺は大人だ」

「‥‥‥何歳?」

「約100歳」

「私の半分ね」


博士が大体100歳くらいで死でたし、生前の俺が賢者一歩手前だったから合わせると140歳くらいかな?まぁ転生して死体が蘇った時点で年齢なんて関係ない様な気がするけど。


「じゃぁ今度は私ね、私はサイサリス。職業はオーキスのお嫁さんかな?歳は200歳で特技は古代魔法かな?」

「古代魔法ってたしか失われたアレ?」

「そう、大昔の人が使っていた魔法で今使われている魔法より強いの」


古代魔法は現在の魔法とは違い、細かい制御が効かない代わり戦術級規模の魔法が多く、伝承では戦略級規模の魔法も存在するヤバい魔法だ。

あと偶然かもしれないが名前がサイサリスで核爆級の魔法使いって‥‥出来過ぎで怖い!


「それで貴方はガッカリするかもしれないけど…私は呪いによって成長が止められているの。だから子供のままなの」

「素晴らしい!最高じゃないか!」

「え?」

「あ、ごめんねちょっと興奮してた。まぁこれから一緒に居るのなら最初に言っとくね?俺ロリババア趣味なんだ」

「ろりばばあ趣味?」


あーこの世界にロリコンって概念がないのか!

ならまぁ別に誤魔化すこともないか。


「簡単に言うと少女の様な体形だけど、精神年齢は大人って人が凄い好きって事」

「まるで私の事ね?」

「そうだよ?君の事だよ」

「…う、うん‥‥そうなんだ」


ロリババァサイコー!!!!

若干頬を赤くして少し顔を背ける仕草がぐっときます!


「ワンダフォーー!!!」

「な、なに?」


急に叫び出したので驚いたのか体を仰け反らせるサイサリス


「いや、尊い光景だなと思って心に刻み込んでいるだけだ」

「そ、そう」



この時物理的にも体を引かれた事が以外にもショックだったな~と思い返していると抑揚の薄い声で現実に引き戻された。


「ねぇ聞いてる?」

「ああ、ごめん何?」

「ところで昨日の衛士長さんとはどんな関係?」

「彼から情報を仕入れて、俺が賊を処理してお金を回収して彼が後始末と手柄を貰う関係」

「つまり情報屋といった所かしら?」

「まぁそんな感じ」

「そう、なら今度ご挨拶に行かないとね。ところで彼の名前は?私聞いてないわ」


彼女としては特別な事を言ったつもりはないだろう。

この先もオーキスの傍にいるなら衛士長と接する機会は多くなるのは明白なので一度しっかりと挨拶をと思っているのだが…何故かオーキスは決まりの悪そうな表情をしていた。


「‥‥‥知らない」

「え?」

「‥‥‥」

「嘘でしょ?」

「ホントだ。いつも心の中で熱血衛士長さんって呼んでた」

「‥‥‥今度私が聞いておくわ」

「‥‥‥お願いします」


いやね?

お互いに名前を聞かない関係ってなんか憧れない?夜な夜なコッソリと密会して情報を買う。しかしお互いに深い入りしたり詮索しない大人の関係。


「はぁ~…」

サイサリスの溜息が広々とした空間に浮かんで消えた。




食事が終わればお楽しみのお宝発掘の時間だ。


「じゃぁ何かあったら合図よろしく」

「判ったわ」


二手に分かれて屋敷を探索する。


時には壁を破壊したり床を撃ち抜いたりと最早自分の方が盗賊なのでは?と一瞬思ったが、今更なので気にしない事にした。


地上を漁っても何も出て来なかったので、地下への入り口を探した所一か所だけ色の違う床を偶然見つけ、そこを探索していると地下へ続く階段を発見した。


地下を進むと宝物庫を発見し中には金貨が一杯詰まった大樽とキレイな装飾が施された剣と盾が飾られていた。


「マーベラス!」

「これは‥‥凄いわ」

「じゃぁ早速!」

「ええ」


背中に背負った亜空間収納リュックに樽ごとポイポイと入れて行くと物の数分で宝物庫が空になった。


「サイサリス?戻るよー?」

「‥‥‥」

「おーい?‥‥って本?」

「‥‥」


サイサリスは部屋の端に無造作に積まれた本を食い入る様に眺めていたので、反応するまで待ったが、かなり熱心に読んでいるのか反応がない。


「おーい!」

「っは!?な、なに!?」

「その本持って‥‥ってあ!もしかしてコレ古代文字の本?」

「そうよ、と言っても多少読める程度だけど…」

「凄いね!読めるんだ!少し前に同じ様な本を拾って解読しようと頑張ったけど、古代文字で書かれている事しか判らなかったから解読は諦めてたんだ・・・・」

「そうなの?私が知ってる範囲で良ければ教えるわ」

「ありがとう!!」

「ちょ!‥‥もー仕方ないわね」


ついつい抱きしめてしまったが彼女も特に嫌がる素振りを見せないので問題ナシ!

暫くロリババア成分を補充した後、本を回収し地上に戻るも移動中も黙々と読書をしていたので取り合えずサイサリスの読書の区切りが付くまで滞在してから撤収する事になり、時間が余ったオーキスは荷物の整理をしながら時間を潰した。



「一区切りついたわ」

「じゃぁそろそろ撤収だな」

「後で衛士長さんに挨拶に行きましょうね?」

「はい」


運命の出会いを演出してくれた熱血衛士長さんには素晴らしいネタ装備を贈呈しようと思いながら拠点に向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る