第7話 熱血衛士長


聖女が王都に帰るらしい。



「ようやく窮屈な監視生活が終わる!」

顔には出さないが内心では小躍りしたい程嬉しかった。


聖女様は何を思ったのか初日以降ずっとストーカーの様に付き纏って来た。

孤児院の仕事をしてる時に手伝ってくれるのは嬉しいのだが、夜中に部屋を訪ねて来た時は驚いた。


数日前の夜に部屋のドアのノックする音が聞こえたので『はーい』と返事をすると『夜分に失礼します、少しお時間宜しいでしょうか?』と知らない女性の声だったので人違いだなと思い『宜しくないです』と言うと急に静かになったので前世で言う所のピンポンダッシュ的なやつか?と思い即興味が失せた。


その翌日には『アルテです、今お時間宜しいですか?』とアルテを名乗る女性が来たので対応する事にしドアを開けると見覚えの有る顔だった。


「ああ、聖女様でしたか!」

「誰だと思っていたのですか?」

「新しいシスターさんかと」

「そ、そうですか‥‥」


うーむこの時の苦虫を潰した様な顔をした聖女様は面白かった。カメラが有れば是非一枚!と言いたいほどだ。


ともあれ彼女が訪ねて来た理由は俺が夜な夜なやっている魔道具研究に興味が有った様でアレは?これは?としつこく質問をしてくるので追い返した覚えがあった。


その後も何かと顔を合わせる事が多かったし、相変わらず観察と言う名のストーカー行為のお陰で満足に金稼ぎに行けないかったのがストレスだった。



(しかし、その監視生活も今日までだ!)



「では、またいつかお会いできる日を楽しみにしています」


名残惜しそうな顔で馬車に乗り込む聖女様を見送りながら久しぶりに熱血衛士さんと会う事にした。


★★★★★★★★



「久しぶりだな?」

「あれ?なんか恰好が偉くなってない?」

「気が付いたか!お前のお陰で衛士長に昇格したんだ!」

「へー」

「実はな‥‥」


話しを聞いて驚いた。


ちょっと前に聖女様の監視を逃れて散歩していた。

その途中で盗賊さん達に絡まれたので迷惑料とし所持金と首を頂いた帰りに凄い美女を連れた熱血衛士さんに出会った。


それで連れていた美女さんだが…実は大商会の娘さんで彼女は実家の危機を乗り越える為に独自に盗賊達から金を借りて実家のピンチを乗り越えたが、結構ギリギリの立て直しで借金返済が出来なくなった。


分割など許す盗賊達ではないので『払えないなら体で支払え!』と脅迫していた所に熱血衛士さんが居合わせ、なんやかんや有って熱血衛士さんが借金を立て替えたのだが、利子として彼女の体を要求して来たので時間稼ぎをしてその場を離れた。


その直後に散歩中の俺が絡まれて貯金箱やー!迷惑料払えやごラァ!と所持金と首を根こそぎ奪った。

そしてその帰りに美女をぶらさげた熱血衛士さんに出会い、日頃感謝として奪った金の半分を渡した。


その金貨で立て直し直後でギリギリだった彼女の実家は経営が安定し、そのお礼に婚約となり大商会の後ろ盾も有り熱血衛士さんが熱血衛士長さんになったそうだ。


酷いマッチポンプだが、第三者から見ると借金を返済しても人を脅す盗賊に熱血衛士さんが天誅を下したと思われており、首を刎ねることから『首狩り』の異名が付き始めているそうだ。


「ふむ。昇格おめでとう!結婚式が決まったら是非招待してね!」

「ああ!これからも頼むぜ!」

「任せろ!じゃぁそろそろお仕事の話しだ。もうそろそろ西側の奴らは貯め込んでいると思うが?」

いつもどおりパチと金貨をテーブルに置く。

するといつもの悪い顔になった熱血衛士長さんが口を開く。


「部下の調査だと西側は今街の外で仕事していて暫くは戻らない。もし今スグって話しなら北が一仕事終えたそうで西に比べるとうま味は薄いが、そこそこ狙い目だ」


流石熱血衛士長さんだ。

代案まで用意するとは解ってるじゃないか!一流はそつがないな!


じゃらっと一握りの金貨をテーブルに乗せた。


「お、おいおい!これは流石に…」

「一流の仕事には一流の報酬が必要だ。違うか?」

「あ、ああ、それは同感だ」

「じゃぁ次もよろしくな!」


熱血衛士長さんが納得したのですぐさま部屋を出て北にある大きな屋敷に向かった。



この街の北側には大きな屋敷がある。

元々は貴族が住んでいたが事情が有って屋敷を放棄する事になった。

しかし取り壊しにもお金がかかるのでそのまま放置されていた所、盗賊たちの根城になった。


勿論この街を収める代官も何度か対処しようとしたが、上手く行かず今は不干渉だ。


「つまりここは監視の目が無いからと好き放題した盗賊がパンパンに溜め込んだ貯金箱って訳だ」


ホクホク顔で屋敷に近づくと厳ついお兄さん3人が立ち塞がった。


「ぼくぅ?ここは危ないからかえ…」


セリフの途中だが首をスポーンした。

どうせ押し入るんだから隠れても無駄だ。残りも手早くスポーンする。


「さーてお腰に付けた巾着にはぁ~!っち!しけてんな」


やはり門番程度だと所持金がしょぼい。銀貨しかなかった。


「まぁ仕方ない、取り合えず袋ごと頂きますね~」


こうして手あたり次第出会いがしらにスポーン!しながら腰の巾着を奪い遂に屋敷に乗り込んだ。


屋敷は結構大きく一階を制圧するのに結構時間が掛かった。

でもそのお陰で収穫は上々だった。


2階に上がると大きい扉から上半身裸の盗賊が出て来た。


「テメェの仕業か?ガキ」

「コイツはなんか偉そうだし・・・逮捕だ!」


偉そうな半裸をピアノ線で天井から吊るし、一息付いて居ると奥の扉から続々と盗賊が出て来る。



「だれか!このガキを殺せ!!!!」


仲間の存在に気付いたのか半裸が泡を喰った様に叫ぶ。


「ぼ、ぼす!?!?」

「今助けま…」

「早くガキを・・・・・・」


「半裸の癖にボスなの?」


ボスに気を取られている内にピアノ線を飛ばし後から出て来た盗賊をスポーンする。

スポーンが終わった所で手近なドアから中を確認しスポーン漏れが無いか確認して行く。


全ての部屋を見終わった後、未だに喚くボスを放置し家探しを始める。


「家探しの定番と言えば隠し部屋の開放!」



手あたり次第に壁を切り裂くと金貨が隠された隠し部屋を発見した。


「イエスイエスイエス!!!」



隠し部屋には大量の金貨や金塊が積まれていて、中々に壮観な景色だった。


隠し部屋の金貨と金塊を全て亜空間収納袋に収めた後、半裸のボスを尋問し地下に宝物庫が有るとの情報を聞き出した。



地下に続く階段を下りると鉄格子の嵌められた牢に1人の女性が居た。


「大丈夫・・・そうだね」


所々青アザは有るが目立った外傷はない。


「おーい、生きてるー?」

「生きてる・・・」

「なら良かった。所でなんで此処に?」

「人攫いよ」

「そっかそれは災難だったね。とりあえず鉄格子壊すから少し奥に行ってくれる?」

「無理よ、対魔法処理がされてるもの」

「まぁ良いから良いから」


対魔法処理って何処かで聞いた事が合った気がするするが・・・まぁいつか思い出すだろと思い超高圧ウォーターカッターで鉄格子を切断して行く。


(んーやっぱり豆腐みたいにスパスパ行くのは気持ちイイ!)


からん、からんと切断された鉄格子が床に落ちる音が響くなか人が通れるサイズまで隙間を拡張して居るとふと女性の首に見覚えのある首輪が付いている事に気が付いた。


「ちっとだけ動かないでねー」


魔力を込めたピアノ線でひと息に切断する。


「よーし、施工完了!鉄格子も良い感じに切断出来たし。いゃぁ〜良い仕事したぁ〜」

「・・・」

「さーて、では本命のお宝は〜・・・キタァ!」



女性が囚われていた牢の斜め向かいに大き目のリュックサックに数冊の本と金細工、豪華な剣と大袋一杯に詰まった金貨があった。


「さーてこのリュックは何だろうね?」

「それは亜空間収納のリュックよ」


振り向くとしっかりとした足取りでこちらに近づくお姉さんが教えてくれた。

お姉さん曰く、あのリュックは亜空間収納袋と同じ効果があり容量もそれなりに大きいそうだ。盗賊の自慢話しを聞かされて居る内に覚えたそうだ。



「じゃぁここのお宝は全部頂きましょう!金貨はお姉さんの取り分でどうぞ」

「え?いいの?」

「もちろんですよ」

「じゃぁ遠慮なく!これで故郷に帰れる!」


宝物庫の中身をゴッソリと頂戴した後、2階に戻りぶら下げたボスをお姉さんが仕返しに気絶するまで殴った後、スポーンして盗賊を全員始末し『盗賊の首確かに貰い受けた。 首狩りより』とメッセージを残しルンルンで帰宅した。


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