第6話 聖女との出会い
異世界人なら転生特典でどんな困難でも簡単に乗り越えられる。
そう思っていた時期もありました。
「人間は‥‥無力だ‥‥」
力尽きた俺は机に頬を付けて項垂れていた。
結論から言うと失敗だった。
まず亜空間を開くの事が出来なかった。
世界は高次元で構成されているが人間が認識できるのが3次元、しかし認識出来ないだけですぐ傍には存在すると思っていたが‥‥結局『亜空間』という物を理解できず、心が折れた。
そして机にべたーっとへばって居たところにタイミング良く訪問者が現れた。
「オーキス!食事の時間でーす」
「はーい、今行きまーす」
「あ、起きてた」
そう言いながらドアを開けたのはいつものシスターさんだった。
「冷める前に食べてね?」
個室欲しさに孤児院のお手伝いを沢山しているのでシスターさんとは仲の良い姉弟の様な関係になっている。
とは言え何か特別な事がある訳ではないので近所のお姉さん的な感じだ。
「わかったー。ありがとーお姉ちゃん」
「はーい♪」
偶にこうやってご機嫌を取る事で多少の事には目を瞑ってもらえるようになるのだから安いものだ。
簡単簡単~と内心でほくそ笑みながら食堂に向かうと見知らぬ人が居た。
決して派手な衣装ではないが幾重にも重なった純白の布と各所に施された金の装飾が一種の神々しさを感じさせる衣装に身を包んだ妙齢の女性だ。
「聖女様!どうしてこちらに!?」
シスターお姉ちゃんが慌てた様子で聖女と呼ばれた女性に駆け寄る。
「急な来訪で申し訳ございません。王都に帰還する前に巡礼として訪れただけです」
「そ、そうでしたか!お出迎えも出来ず申し訳ございません」
「いえ、連絡も無しにお邪魔したのは私ですので配慮は不要です」
「そうでしたか…」
シスターと聖女の会話を聞きながら博士の持っている【聖女】についての記憶を探る。
聖女。
女神アルテミスを崇めるアルテミス教が誇る凄腕の治癒魔法の使い手で蘇生魔法も使えるとの噂だ。
・・・・・・・・・以上。
(うん。流石は
残念な事に当時の聖女様は博士のストライクゾーンに居なかった為、殆ど記憶になかった模様。幼くもない女など論外だそうだ。
勿論俺としても歴代の聖女は世襲である事くらいしか知らない。
なので心に中でめんごーと謝りながら目の前に有ったパンに噛り付いた。
「あの?」
「もぐもぐ(亜空間収納袋を買ったから手持ちが少ない・・・アタックするか?)」
「あの?」
「もぐもぐ、もぐもぐ(だがスパンが早すぎて疑われるのもな~)」
「あの!」
「‥‥ん?」
「そのパン‥‥私のです」
「そりゃ失敬‥‥返します?」
「え?いや‥‥結構です」
「うぃ」
「‥‥」
「もぐもぐ」
「‥‥あの?」
「ん?どうしました聖女様」
「そのパン私のなんですが?」
(それはさっきも聞いたが?‥‥あ、そう言うことね!)
「あー変わりを用意しますんで少し待って下さい」
「え?」
困惑する聖女様を後目に「BLTサンドでも作るかな~」と呟きながら厨房に向かった。
★★★★★★★★
―――聖女――――
私はアルテミス教の聖女をしている『アルテ』です。
生まれた時から特別な魔力を宿していたことから小さい頃に教会に引き取られ『聖女』として育てられました。
修道院にも通い聖女として民を導き癒す存在として修業をこなし、長旅に耐えられるまで成長した頃からは難民や孤児達への支援を行っていました。
貧民街や孤児院など過酷な環境で生きている子供達の現実に胸を痛めた事は何度もありましたが私の力で救える命が有る事はとても素晴らしいと思っていました。
そしてある日私は神の奇跡と言われている『蘇生魔法』を習得することが出来ました。
「これでもっと多くの人を救うことが出来る!」
‥‥‥ですが現実は違いました。
蘇生魔法を習得した私を待っていたのは権力者たちによる力の独占でした。
基本的には神殿の奥に作られた礼拝堂でお祈りを捧げ、神殿を訪れるお偉方とお話をして数人のけが人を癒し、神殿の周りを視察し礼拝堂に戻る。
炊き出しや支援等は一切関わる事は出来ず、贅を尽くしたパーティーに連れ出される日々。
誰も彼もが富と名声を求めて近寄ってくる。
そんな生活に嫌気がさした私は巡礼と称して信用できる者だけを連れて神殿を出ました。
そして各地を回っている最中に教皇様からの帰還命令が下ってしまい泣く泣く王都に向かう途中に立ち寄った街でとある男の子と出会いました。
大抵の人で有れば私が聖女で有る事を明かすと媚びを売る様にすり寄ってくるのですが、彼は興味が無いのかこちらを見る事もなく私のパンに噛り付きました。
それは私のパンです!と伝えると食べかけを返されたり、何度か無視もされました。
最後には一応パンの変わりにびーえるてぃーさんどなる物を出されましたが以外に美味しかったです。
私を雑に扱う彼の事が気になって暫くこの孤児院に留まる事にしました。
もしかしたら誰も居ない場所で私に接触してくるのでは?と思い彼を観察していましたが、こちらに視線さえ向けることは有りませんでした。
彼は日中孤児院の仕事をよく手伝っています。
洗濯や食事、掃除などをこなしみんなが寝静まった後で部屋に籠って何かをしていました。
何をしているのか気になったので、夜部屋を訪ねると追い返されました。
聖女を拒む人がいるとは思ってもみず、どうすればいいか判らずしばらく扉の前で立ち尽くしていたくらいです。
しかしどうしても気になったのでめげずに翌日の夜も訪れた所今度はきちんと対応して下さいました。
なぜでしょうか?
ともあれ彼は魔道具師で魔道具の研究をしているそうでした、なのでその夢を応援します伝えた所とても雑な対応をされました。
その後も何度か関わりを持ちましたが彼の態度が変わる事は有りませんでした。
もしかしたらこの人なら私の悩みを解決してくれるかもしれないと思いましたがそろそろ王都に戻らなくてはならなかったので再会の約束をして街を出ました。
「再会を願っておりますオーキス様」
『いつかオーキスと共に旅をする』この街を訪れて私には新な目標が出来ました。
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