第5話 ボス部屋前に到着

「いよいよボス部屋だね。よければ魔力を補充しようか?結局ここまで一度も補充してないし」


神妙な面持ちで提案してくるヒロに私は素直に頷いた。

ダンジョンに入ってはや1時間半。ぶっ通しでの戦いは想像以上に疲弊した。だが、定時まであと30分を切っているので呑気に休憩もしていられない。



「ありがとうございます。お願いします」

「それにしても、凄い魔力量だね。本当にレベル30なの?」


私の手を取り魔力を送りながら、いつもの声色で会話を始めたヒロ。手から魔力が流れてくる不思議な感覚を味わいながら、私もいつも通りに言葉を返した。



「はい。レベルは30なんですけど私の場合、魔法のスキルがカンストしているので魔力の消費が人より少ないんです」


通常、スキルをカンストした状態でレベルアップしてもそのまま引き継がれる。しかし私は『素地が変わらぬ状態でスキルの数値がクリアされる』という固有スキルの持ち主なのだ。

そしてスキルは魔法の威力上昇や消費量に大きく関わっているので、レベルが上がる度にスキル上限が上がる私は、下級魔法しか使えなくとも、高レベルな人しか使えない上級魔法レベルの威力が出せる。

これはかなり稀な固有スキルらしく、基本的に目立ちたくない私は周囲に隠していた。

現代でスキルをカンストする人なんて滅多にいないので今までバレた事も無い。そういう意味では良い時代…なのだろうか?

案の定ヒロは、私の手を離した後に目を丸くする。どうやら魔力の補充は終わったようだ。



「カンスト!?すごいな…俺、カンストしている人初めて見たよ」

「だとしても次はボス戦です!残魔力的にあと一発しか撃てませんが、絶対に仕留めるので安心してください!」


またしても私たちの会話に割り込み、私の準備の確認も取らず嬉々とした顔で扉に手を掛けるレン。

色々言いたい事があるがグッと堪えてレンの様子を見守るも、扉はビクともしていなかった。



「…レンさん、魔法を使うので少し離れてください」


仕方なく扉を押したり引いたりしているレンを扉から遠ざけると、風魔法を使ってみる。鎌鼬のような強風をぶつけても、あたりの石壁はボロボロと崩れるが、扉はビクともしなかった。

これはボス戦に入る前の力試しなのだろうか?聞いたことはないが…

戸惑うが、時間がないので直ぐに切り替える。今度は近くに落ちた石壁の破片を手にし、強化魔法を可能な限り重ねがけして、再度自分に対しても強化魔法を何重にも重ねがけすると、扉に向けて思いきり石を投げた。

すると少し強化しすぎたらしく、石は大きな扉を容易く砕き、爆発音のような大きな音と一緒に視界を覆うほどの砂埃が舞う。



(やばっ、やり過ぎた…かも)


自分でも引いてしまう威力に固まっていると、扉の先から叫び声が聞こえてきた。

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