第2話 問題発生

「大変です!ダンジョン内の魔具全てが機能停止しました!」


アラームが鳴る中、その音に負けない程のレンの大声が事務所に響いた。

その叫び声に事務所にいた社長と副社長は椅子を倒す勢いで立ち上がる。



「何だと!?原因は!?」

「わっ、わかりません」


すっかり混乱しているレンの元にヒロが駆け寄り、やがてハッとしたように手持ちライトになる魔具を光らせ冷静な視線を社長に向けた。



「…おそらく止まっているのは魔力を貯蔵庫から直接供給して利用する魔具だけです。もしかすると…魔力貯蔵庫に何かあったのかもしれません」


ヒロの推測に私の背筋は凍った。

現代人は数えきれない量の魔具を使っている。それは自分の潜在的な魔力量では足りない程に…。

だから現代人のほとんどは、人工的に魔力を生成できる『魔核』を保持している企業から、魔力を買って魔具に使っている。

貯蔵庫は購入した魔力を貯める魔具だ。



「まずいな…だとしたら、早くどうにかしないとダンジョンから魔獣が溢れてくるかもしれない」


社長の言葉にダンジョンに勤務している総勢10名の顔が一様に強張る。

幸いにもダンジョンは休みなので、客が危険にさらされる事はないが…逆に言えば魔物を減らす人が居ない。

通常なら魔物が一定数以上増えると迎撃用の魔具が駆除してくれるが、それが機能停止。

もし増え過ぎた魔物が行き場をなくし、ダンジョンの外に出て来たら…うちのダンジョンは責任を問われる。もっと最悪の場合、この辺りに住む人の命が危険に晒されるかもしれない。

皆も同じ事を考えたのか難しい顔で黙り込むが、重々しい空気を落ち着かせるように社長が明るい声を張り上げた。



「大丈夫だ!幸い攻撃用の魔具は魔具本体に魔力を貯めて使用する物ばかり。貯蔵庫が止まっていても問題なく戦える!」


社長の言葉に、皆も『確かに…』という様子で強張っていた表情を僅かに柔らかくした。そんな社員の機微を素早く察した副社長はさらに鼓舞させるように明るい声を上げる。



「それに戦うのは業者が来て貯蔵庫を直すまでの間だけ。どんなに長くても数時間で直るでしょう」


ダメ押しの一言で皆の顔に微かに明るくなった。『数時間だけなら持ち堪えられるだろう』という空気があっという間に浸透し、やがて何かのイベント前のような熱まで帯び始める。



「よしっ!じゃあ皆んなでこの苦難を乗り超えましょう!」


部長がそう叫ぶと、同調する様にやる気に満ちた言葉が事務所に響く。なんだかスポ根臭の漂う空気を様子を遠くから眺めつつ、表現し難い嫌な予感に襲われた私は一人ひっそりと眉間に皺を寄せた。

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