第11話 嫌われ者の困惑






 公爵令嬢から下僕になりたいと迫られている。


 意味がわからない。


 俺は「こんなにも貴方のために生きる覚悟があります」という内容の手紙を受け取って、ひたすら困惑していた。


 先日のお茶会で出会ったグリーンヒル公爵令嬢。初対面なのに「下僕になりたい」とか言われてわけがわからなかった。

 後々冷静に考えれば、やはりあれはからかわれていたということだろうと思い至った。令嬢同士で、なにか度胸試しとかそういう罰ゲーム的なもんだったのかもしれない。


 そう思ってどうにか納得していたのだが、本日我が家にグリーンヒル家から手紙が届いた。

 父様も母様も大パニックだ。


「お前! グリーンヒル家の令嬢になにをしたんだ!?」

「なにをやらかしたの!?」


 俺がなにかやらかしたと決めつけているが、まあそれは無理もない。その他に公爵令嬢から手紙が来る理由がないからな。

 しかも、俺宛の手紙の他に父親宛の手紙もあったらしく、俺を疑いながら怖々と開封していた。


 俺はといえば、両親にまともに見られたのは随分と久しぶりだと考えていた。


「ううむ……ヒューイット。お前、先日のお茶会で具合の悪くなったグリーンヒル公爵令嬢をお助けしたらしいな」

「は?」

「手紙にそう書いてある。その礼に茶会に招きたいとも」

「まあ……ヒューイットがそんなことを?」


 俺はぱちぱち目を瞬いた。心当たりはまったくない。誰かと人違いしてんじゃねえのか?


「何かの間違いかもしれんが……グリーンヒル家と繋がりが出来る機会だ。断る手はないだろう」

「そうですわね。ヒューイット! グリーンヒル家で粗相したら許しませんよ!」


 俺が口を挟む間もなく、両親はグリーンヒル家へ招かれることを決めてしまった。


 あの令嬢はなにか勘違いをしていると思うんだが……


 まあいいか。間違えているのはあっちだ。


 その後、俺も自分宛の手紙を開いてみて、そのぶっ飛んだ内容に驚いていたわけだ。

 手紙と共に贈られてきたのは青紫の花が刺繍されたハンカチだ。もしかして、彼女の施した刺繍だろうか。


 令嬢から贈り物をもらったのなんて初めてで、ちょっとどぎまぎする。

 人違いだろうから、これは返した方がいいんだろうな。

 恩人のために一針一針刺したんだろう。そんだけ思ってもらえる相手が、少しだけうらやましかった。



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