　初めてのお茶会の日から、何度か別の家で催された茶会に参加したが、栗毛の彼女は参加していなかった。

　ならば王宮の茶会に招こうとしたが、「体調不良につき欠席」と返ってきた。

　思い通りにいかずにいらついた僕は、父上に訴えて婚約の打診をしてもらった。

　やれやれ。最初からこうしていればよかったんだ。

　そう思っていたのに。

「断られたってどういうことです！？」

　ありえない。王家からの婚約の申し込みを断るだなんて。不敬だろう。

「王命と言えば従うでしょう」

「お前はなにをいっている。王命とはこんな場面で出すものではない。公爵家には断る権利があるし、断る理由もきわめて正当なものだ」

　何が正当なものか。王室に逆らうだなんて臣下にあるまじき態度だ。

「よいか。グリーンヒル公爵にはステラ嬢しか子供がおらん。故に、婿を取って家を継がねばならない。だから、お前の婚約者にはなれないのだ」

「そんなの、養子を取れば……」

「実の子に家を継いでほしいのが当然だろう。ステラ嬢が婿を取って家を継ぐのだ。お前は公爵家の婿にはなれん。ステラ嬢のことは諦めろ」

「嫌です！　なんで僕が諦めなければならないんですか！」

　父上がわけのわからないことを言うので、僕はイライラした。公爵家がなんだ。第一王子と結婚できる方がステラが喜ぶに決まっているだろう。

「そもそも、わしはグリーンヒル家との婚約は反対だ。グリーンヒル家と王家は血が濃い。グリーンヒル公爵には王位継承権もあるほどだ。今さら婚姻で絆を強化する必要はない。むしろ、貴族間のバランスを考えると、グリーンヒル家とは婚姻を結ぶべきではない。他の公爵家か侯爵家の令嬢を選ぶのだ。よいな」

　なんで父上はそんな意地悪を言うんだ。貴族間のバランスなんて知るか。

「王命を出してください！」

「愚か者！　王命とはひとりの令嬢を無理やり従わせるために出すものではない！　王が命令しなければ婚約も結べない王子と他国に侮られるのはお前なのだぞ！」

　父上がふーっと溜め息を吐いた。

「グリーンヒル公爵家とは婚約を結べない。もしもステラ嬢がお前に惚れ込んで王家に嫁ぎたいと言うのであれば、公爵を説得できるだろうがな」

　なんだ。それならステラが僕と結婚したいと言えばいいんだ。

　公爵に「僕と結婚したい」と言うようにと、ステラに手紙を書けばいい。

　まったく。僕の手を煩わせるだなんて。

　ステラの方から僕に婚約を申し込んでくるべきなのに。婚約者になったらちゃんと叱っておかなくちゃな。

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