第27話 じゃんけん

 相変わらずヨハネスは、美少女たちに囲まれてウハウハだ。

 いや、ヨハネス本人は、一応否定している。

 だが、あのニヤけ面を見ているとどうも腹が立つ。


「ふん、ハーレム野郎のニヤけ面を見ながら戦うことになろうとはな」

 と、吐き捨てるように呟くハンス。

 どうやらコイツも俺と同意見のようだ。

 その言葉に反応するあちら側の聖女であるビアンカ。

 パートナーを侮辱され、怒りに顔を赤らめる。

「ならば、ハンスたちは別行動を取れば良いだろう」

「ああ、そうさせてもらう」

「そうなると、大まかに分けても東側と西側。二つのルートがありますね」とラフィーナ。

 そうなのだ。ヘンリックさんたちの、別働隊主力が通った後の後始末。

 討ち漏らした残敵の掃討戦が俺たちの任務なのだ。

 別に一緒に行動しなくても構わないだろう。

 ……命令違反で銃殺刑とか無いよな。


「じゃあ、オレたちは西側……」「西側ね」ハンスとビアンカの声が重なる。

「西側だ」「西側ね」にらみ合う二人。

 どちらも、有利な方を選ぼうと考え譲らない。


 ヘンリックさんたちは主力とはいえ別働隊、陽動が目的で、討伐軍の本体は、後ろでふんぞり返っているエロ王子たちだ。

 エロ王子率いるは、近衛騎士団という最強戦力。

 つまり東側は、「本体」と「別働隊」に挟まれていて、多数の魔物は仕留められていると思われるのだ。

 まあ森を移動しながら戦うので、討ち漏らした敵はいるだろうから、全く魔物はいないことも無いのだろうが……。


 それに対して西側は「別働隊だけ」が通った後だ。

 強敵を優先して仕留めたらしいから、「俺たちに手強い敵」は、残ってはいないのだろうが、「素通りしただけ」の場所も残されているはずだ。

 ならば、西側の方が断然魔物の数が多いだろう。


「譲りなさい」「嫌だね」お互い相手を睨み付ける。

 メンチを切るヤンキーみたいだ。

「まあまあ」と二人の間に割って入るラフィーナ。

「お互い友好的な決着を付けるため、じゃんけんをしてはどうでしょう?」

 と、じゃんけんを提案した。

 なるほど、こちらの世界にもじゃんけんは有るようだ。


「……このままでは埒が明かない。良いだろう」

「……良いわ。この馬鹿が同意するのなら」

 と、決着をつける方法は簡単に決まり、結果も簡単に出た。


「……おい。こんな簡単に負けるなよな」

 俺はジト眼でハンスを見やる。

 コイツは五回勝負で三回で負けたのだ。

「うう」うな垂れるハンス。

 どうやら幼なじみには、コイツの手の内は全て見透かされていたようだ。


「やれやれ」

 俺は肩をすくめる。

 まあ、俺も玲奈とじゃんけんすると大抵負けるので、ハンスを責めることは出来ない。

「まあ、決まったものは仕方ない」

 ハンスの勝負運の無さは腹立たしいが、俺がごねても状況は何も変わらない。

 結果に対して文句を垂れているのならば、魔物を探索をした方がマシである。


 盛大に抗議しな俺を見て不思議に思ったのかどうかは判らない。

 だが、ヨハネス側の少女たちの俺を見る目が少し変わったようで、彼女たちは驚き目を見張る。

 小声で、「あら意外」「文句を言うのかと思っていたわ」「でも、あのハンスと同じ側の人よ?」「そうよね。見た目は悪くないのに、中身はハンスと同じではねえ」「そうそう」「ボソボソ」と。


(んん。あれ?)

これって俺の評価じゃなくてハンスの評価基準が、色々と低いのではないだろうか。

(アイツのデバフがもの凄いのでは……)

 俺は、更に聞き耳(幽霊には耳が無いのでただの飾りだ)を立てる。


「あの人、見かけによらないね」「ええ。あのハンスと一緒なんだから……」「うん。仲良いよね」「結構イケてる感じだったのに」「ボソボソ」

 む。イケてるだと? 聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がするぞ。


「そうだね。ユウト君は、エキゾチックな雰囲気があるから、普通ーにしていれば、案外モテたかもしれないね」とカミラ。

「な、何だと……」

 カミラの言葉は、金属バットでぶん殴られるよりも強い衝撃を俺に与えた。

 俺は、どうやらハンスの巻き添えを食らっていたみたいだ。


「ふうむ」俺は顎に手を添えるポーズをとる。

 人間は過ちを犯す生き物だ。

 誰もが悩み、戸惑いながらも前に進んでいく。

 ただし、わかり合えるのも人間なのだ。

 ここは一つ寛大な心で、あの子犬のような勇者を許そうじゃないか。


俺はヨハネスたちを見やる。

「そうすれば、一人くらい女の子たちを紹介して……」

 彼の所へ行こうとすると……。

「おおっと、何処へ行くんだい? この煩悩勇者めが」と、背後から声がする。

「うっ。クラウス……」

 振り返ると、病んだ目をしたクラウスがいた。


「ククッ。今更何言ってるんだ。ユウトよ。お前はこちら側だろうに」

 クラウスは、直ぐさまガッと俺の手首を押さえてきた。

 凄い力で離さない。

「逃がさない。逃がさないぞ」と、握る手の力を更に強めながら、ブツブツ呟いている。

黒いオーラを発するクラウス。

 どうやら闇墜ちしたみたいだ。


「うう、これはだな……」クラウスに弁明しようとすると、

「なあ、ユウトよ」と、ハンスが俺の肩に手を回してきた。

 二人は俺を左右に挟みこむ。どうやら逃がす気は無いようだ。

「何処へ行くつもりなんだ?」

「い、いや。俺は不幸な出会いを修復しようと思ってだな……」

「何を迷っている?」ジッと見つめるハンス。眼が血走っているぞ。

「勝て。勝てば良いんだ。勝てば全てが手に入るんだ」ハンスは囁くように耳打ちする。

 何処かの賭博黙示録みたいな事を言う。

 まあ、それが正しいのだけど。


「うう」俺はガックリと肩を落とす。既に賽は投げられたのだ。

 俺はヨハネスと戦う運命のようだ。

 どこで運命の選択肢を間違えたんだろうか。


「ああ、ビアンカよ。一つ忘れていたことがある」

「何よ。今更変更は受け付けないぞ」

「いや、西側はお前らで構わない。ただし、時間制限を付けようぜ。ダラダラと長丁場にしても無意味だからな」

「ふむ、そうね……」形の良い顎に手を添えるビアンカ。

「良いでしょう」と同意した。

「二日。二日でケリを付けようか」

「……構わないわ」

「ククッ。吠え面かかせてやるぜ」

「あら。そんなに鳴きたいのかしら?」

 ハンスとビアンカは、捨て台詞を残して去る。

 

「やれやれ。ビッグマウスは嫌いだぜ」

 俺が呆れた顔して、ハンスにそう言うと、

「ククッ。獲物が、撒き餌に食い付いたようだぜ?」ハンスは囁くように耳打ちする。

 どうやらハンスには、何らかの作戦があるようだ。

 敵を騙すには、まず味方からと言うけれど、勝算はあるのだろうか。

 本当にやれやれだ。


 これでどちらが多くの魔物を倒すのか、勝負は始まったのだ。


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