第23話 パーティーメンバーの役割分担
現在、俺たちはレイベール学園でこれからの打ち合わせをしている。
俺たちのパーティーは出来たばかりで、連携が未熟だからだ。
流石にいきなり戦場に向かうのは拙いからだ。
「さて――」俺は、仲間たちの顔を見回しながら、話を切り出した。
「これで、俺たち五人でパーティーを組むことになったんだけど、みんなの実力を知っておきたいんだ。
それによって、それぞれの役割なんかも変わってくるからな」
「では、わたしがみな様の基本的な役割を申します」とラフィーナ。
「以前にもご説明した通り、勇者は矛で、聖女は盾であると同時に守られる者です。
勇者であるユウト様が攻撃面の要となります。
聖女であるわたしが盾。
防御面での要で有ると同時に攻撃の切り札でもあります」
「切り札。聖属性の魔法か」
確か聖属性の魔法は、魔物に対してかなり強かった。
黒い魔物をあっさりと消滅させたのだから。
「はい。わたしは治癒魔法を得意としますが、攻撃魔法も得意としております。
先ほどの決闘で、ユウト様が用いた黄金の魔力。
それをわたしも使うことが出来るのです」
「それは便利だな」
あの力を二人分重ねれば、相当な火力となってくれるだろう。
「ええ。ですが、わたしの力は、レイナ様よりも劣ります。
それは魔力の扱い方。それにより出力量が違ってくるからです」
「俺は自分の魔力を使うよりも、大気に存在するマナから直接取り込むから、だっけ?」
「はい、その通りです。
人間が持つ魔力の総量よりも、大気中に存在するマナの量の方が遙かに多いからです」
「ラフィーナは、マナを取り込めないのかい?」
「残念ながら得意とはしていません。
ですから、一度自分の魔力を通してマナを取り込むことになるのです。
その場合はどうしても時間がかかってしまうのです」
「なるほどな」
確か、クラウスも大技を扱おうとした時、動きが鈍かった。
あれは大気中のマナを取り込もうとしていたのだろう。
「つまり、黄金の魔力をラフィーナが蓄えている間、君を守りながら、魔物をどうにかしなければならない。
それが俺たちの役割ということか」
「はい。その通りです。
戦いの基本は、わたしの聖属性の魔法。
『黄金の波動』をいかに引き出すか、が必勝法でしょう」
と嬉しそうなラフィーナ。俺の予想は当たっているようだ。
「それじゃ、俺たちの役割分担が重要になってくるな」
敵である魔物の数が、一体や二体であるとは限らない。
下手すれば十体とかそれ以上を相手にする必要が出てくるだろう。
マナを取り込む間、無防備なラフィーナを守りながら戦はなければならない。
それは考えなしで戦っていては、まず無理だろう。
「よし」俺は振り返る。
「みんなの得意分野を教えて欲しいんだ」
「それじゃ、僕から」とクラウスは挙手した。
「先ほどの戦いの通り、僕は剣と魔法を組み合わせた戦闘スタイルだ。
魔法は土属性が主で、補助的に回復魔法も嗜んでいる。
土属性は防御面での応用の幅が広い。盾役として前衛で活躍出来ると思う」
「ああ。そうだな」
俺も同意する。土属性の魔法の他に、低級の回復魔法を扱える。
前衛として活躍してくれるだろう。
「次はオレか」とハンス。
「オレはあらゆる弓関連を習得している。
得物はクロスボウとナイフを好んで使っている」
そういって、背中に背負っていたクロスボウを取り出して見せた。
クロスボウ。名前はよく聞く武器だけど、実物を見るのは初めてだ。
かなりゴツい武器だけど、ハンスは苦も無く片手で持っている。
「コイツの弓矢には、それぞれ付与魔法をかけられていて、相対する得物の弱点に応じた弓矢に代えられるのさ」
「それは便利だな」
俺が頷くのを見て、ハンスはニヤリと笑う。
「それから、肝心の腕前は……」
そしてクロスボウをつがえて見せてくれた。
簡単な仕草だけど、実際はかなり力を使うと、何処かで読んだことがある。
ハンスはスラリとした体型だけど、かなり膂力があるみたいだ。
「こんな風にさ」
二百メートルはあるだろう、枯れた古木の枝。
そこにぶら下がる蜂の巣を一発で落としてみせた。
「おお」ラフィーナが言っていた通り、くせ者だけど腕は確かだ。
「後は低級の身体強化魔法を扱える」
ハンスは、ボソボソと詠唱し始める。
それが終わるやいなや俺の視界から消え失せて、気づいた時には俺の真後ろに立っていた。
いつの間にか右手にはナイフが握られていて、その刃先は、俺の首元に向いている。
だが、刃はカバーをつけられているので、危険ではない。
「おお」俺が感嘆の声を上げる。
ハンスは満足したのかナイフをベルトに納めた。
これで性格がムッツリスケベでなければ、他のパーティーから引く手あまたであっただろう。
「そうか。ハンスの実力は判った。だけど……」
それにしても軽装だ。皮の胸当てとブーツ。
手甲だけは鉄製で、後はただの服にしか見えない。
まあ、魔法の加護でもあるのかもしれないけれど……。
「軽装過ぎないか?」
あの黒い魔物の爪ならば、容易く切り裂いてしまうだろう。
「愚問だな」ハンスはヤレヤレと言わんばかりに肩をすくめて見せた。
「当たらなければどうと言うことはないのさ」
と、緑よりも赤が似合いそうなヤツみたいなことを言う。
それほどまでに回避に自信があるのだろうか。
「単に弓矢にお金を使いすぎて、装備にまで手が回らないだけだよ」とカミラ。
「鏃は消耗品。付与魔法をかけるには、そこそこ良い魔石を使うんだよ」
彼女はそう補足してくれた。
「……魔法の弓矢は、金がかかるのさ」
ミスリルの鏃なんて、高くて手が出せないという。
付与魔法のかかった鏃も結構良い値段がするそうだ。
だから、ラフィーナに鎧を買って貰おうとしていたのか。
「次はボクだね。ボクが得意とするのは、知っての通りポーション制作」
そう言ってカミラは胸を張る。
どうもあの変なポーションが自信作みたいだ。確かに効果はあるみたいだったけれど、相応の副作用もあったと思うぞ。
「それと、付与魔法だね。
とは言ってもポーションを介してでないと、効果は弱いから、即応性は無いんだけど」と、最後は少し小声となる。
「そうか。それは凄いんじゃないのか?」俺は首を傾げる。
ゲームでは、バフの有る無しでは攻略に雲泥の差が生まれてくるのだ。
まあ、ゲームなんだから、それほど参考にならないが、本物はどうなんだろう。
ポーションを使えば色々と溜めておけるなら、下準備次第でどうにでもなると思う。
これはかなり強く興味を惹かれる。
「やっぱりポーションは、瓶入りだからかさばるからね。
あんまり持続性が無いとかえって邪魔になっちゃうんだよ。
まあ、体力回復から精神向上まで。ポーションって用途が多彩だから、考えるのが楽しいんだよ」と少しウットリした顔をする。
カミラは、机の上でアイデアをこねくり回すタイプではなくて、自分の足で行動するタイプの研究家のようだ。少々頭のネジが緩んでいるようだけれど、
彼女は薬学の知識の他に低級の治癒魔法と中級の補助魔法が使える。
サポート役としては優秀ではないだろうか。
「では」俺は咳払いの真似事をする。気持ちから入るのは重要だ。
「まだまだ未熟者だけど、勇者と呼ばれている。
聖属性の魔法を、剣に付与することが出来るんだ」
「先ほど見せた馬鹿力は、付与魔法なのかい?」とクラウス。
「ああ、身体強化でも力だけだけどな」と俺は頷く。
本当は幽霊勇者なので、考えただけで、重たい甲冑でさえ、Tシャツみたいに着こなせるんだけどな。
まあ、話が長く、ややこしくなるから、そこは端折っておくとしよう。
(味方が幽霊勇者なんて、気分が悪いだろうしな)
それと――。
(精神力というのかな)
俺は拳を握る。少し力が増した様な気がする。
この甲冑の身体を使いこなせば、違う何かが出来る気がする。
やるべきことは山積みだ。だけ一つずつ片付けなければ何も始まらない。
取りあえずは、実力を付けることと、パーティーメンバーを助けることが当面の目標としよう。
もう既に彼らは知らぬ仲では無くなった。ならば、少しくらい手伝っても良いだろう。
寝覚めの悪いことはしない主義なんだ。
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