第18話 仲間を募ろう

 俺たちは、学園長室を退室した。

 俺は廊下を歩きながら、隣にいるラフィーナに、

「これからどうするんだい?」と尋ねる。


「我々と共に戦う仲間を募りたいと思います」

「アテはあるのかい?」

「はい。

 能力的には、問題ない方たちです」

「……なんか持って回った言い方だな」

 彼女の口ぶりだと、何か欠点があるような気がするのだけれど……。


「……あ。噂をすれば、ですね。あちらにいますわ」

 ラフィーナは微笑むと、俺の質問をスルーした。

 そして、俺の腕を取ってグラウンドへ出た。

 美少女に手を握られてかけ出すという、ラブコメでのお約束のシチュエーションだ。

 小手を通して伝わる、彼女のホンノリ温かい体温に、少しドギマギしてしまう。

(なんだかはぐらかされた気がするんだけどな)

 どうも彼女の微笑みに振り回され気味な気がするが、気にしないことにした。


 人気もまばらな校庭の片隅。

 そこには一組の男女がいた。


 ヒョロッと背の高い男子生徒。

 この学園の制服を乱雑に着ているのだが、それはどことなくわざとらしい着こなしに見えた。

 上背は俺よりも高いと思われる。

 痩身だが、腕まくりした袖から見える前腕は太い。

 長い頭髪を後ろで括っているが、片目だけは隠れるほど長く伸ばしている。


 対峙する女生徒。

 男子生徒と比べると明らかに小柄だ。

 だけど主張する部位は大きく主張しており、かなりの大きさだ。

 顔に比べて大ぶりな丸眼鏡とリスの様な愛らしい顔をしている。

 ちょこんとした身振りと仕草が、どことなくあざとく感じる。

 だが、それが良い。


「彼らが、ラフィーナの知り合いなのかい?」と、俺は問いかける。

「はい。

 少年の名前はハンス・ドンケルです。

 少女の名前はカミラ・ブルックナーですわ」ラフィーナは頷いた。

「お二人ともに、わたしと同学年です。

 一通りの教練は済ませており、即戦力となってくれるでしょう」

「よし。頼んでみよう」


 二人は、良い感じに見つめ合っているように見える。

「これを飲めば良いんだな」

 ハンスは、憮然とした顔をしながら、小柄な少女にそう言った。

「うん、そうだよ」

 カミラは、期待をこめた瞳で少年を見やる。

 彼女が手にするコップには、何やら得体の知れない液体が入っているようだ。


「ふむ、分かった」

 ハンスは大仰にに頷くと、コップを受け取る。

 そして、それを一気に飲み干した。

「……ん。ぐっ」

 ハンスの顔色が変わる。

 よっぽど不味かったのだろうか、そのことを必死に我慢しているみたいだ。

 だが、それにも耐えられなくなったようで、大きくよろめくと、後ろにひっくり返ってしまった。


「は、ハンス君!」

 グッタリとうなだれるハンスを、揺さぶるカミラ。

 何やら剣呑な雰囲気だ。



「あの二人、何やってんだ」

 俺はてっきりイチャついているのかと思って、黙って様子を伺っていたが、どうも違うようだ。

「またやりましたね」と軽いため息をつくラフィーナ。


「また? あの二人は、いつもああなのか?」

「はい。

 ですからユウト様、ハンス殿ならば大丈夫ですわ。

 ……多分」

 と、ラフィーナは落ち着いている。

 彼女にとっては、いつもの見慣れた光景みたいだ。

「でも、とにかく急ごうぜ」

 俺は、ラフィーナを急かして二人の元へ向かった。



 俺たちが近づくと、

「はわわわ。そんな、コレで大丈夫だったはず、いやそれでも……」

 と、カミラはブツブツ呟きながら、ハンスを介抱している。

 彼女は少しテンパっているようで、心配したり、悩んだり、考えたりしていて、動く度に、カミラの胸がハンスの顔に当たっている。

 

 ……ハンスは苦しそうな、嬉しそうな顔をしている。


「仕方ない。これを……」

 意を決したカミラは、鞄に手を伸ばした。

「ま、待て問題ない」と手で制しようとするハンス。


「で、でもさ。っと、コレは「正規品」だから大丈夫だよ」

 カミラは、鞄から液体の入った瓶を取り出して、強引にハンスに飲ませた。

 今、ハンスに飲ませている液体は、先ほどの様な不気味な色はしておらず、綺麗な緑色をしている。


「う、うむ」ハンスはゆっくりと液体を飲む。

「大丈夫?」と心配そうなカミラ。

「ああ。もう大丈夫だ、問題ない」と、ハンス。

 彼は起き上がろうと片手をついた。


「あ、まだ横になっていなきゃ」

「ふっもう治った」蹌踉めきながら立ち上がろうとする。

「だ、だめだよ」カミラはそれを制した。

 そしてハンスの頭を、自分の膝の上に頭を置かせた。

 いわゆる膝枕というやつだ。


「ほほう」とハンスは満足そうな声を出す。

 小柄ながらもナイスバディのカミラ。

 ハンスは、ムッチリした太ももを、後頭部で楽しみながら、目は上を向いている。  

 その視線は、カミラの胸を凝視しているのだ。

 苦しそうなのだが、同時に嬉しそうなハンス。


 先ほどわざと蹌踉めいたのは、今の状況を作り出すための自作自演だったのだと悟る。

(俺には分かる。何故なら俺ならばそうするからだ)

 ハンスという少年から強い親近感を覚える。


(いや、俺と言うよりも、もう一人の悪友と同類と言うべきだろうか)

 盛久と考え方やスケベさは同じなのだが、真逆の評価を受けるもう一人の悪友の顔を思い浮かべた。

 間宮紀久(まみやのりひさ)。俺のオタク仲間だ。


(まあ、アイツは言動も隠さないからな)

 話せば気の良いヤツだと分かるのだが、見た目と言動がストレート過ぎるのが欠点だ。

 だから、俺も異世界に召喚されてしまったことを、連絡しなかったのだ。

 アイツならば恐らく大騒ぎして、周囲の友人たちに言いふらすのが目に見えているからだ。

その悪友と同じ匂いが、このハンスという少年からするのだ。



「あっ、ラフィーナ良いところに来た」とカミラは大きく手を振った。

「む、むー」うなだれる?ハンス。

「ラフィーナも回復魔法をかけてよ。

 ポーションだけじゃ無理みたいなんだ」

 と必死なカミラ。

 それに応えるラフィーナは、冷たい目をハンスに向けており、

「……しばらくそうしていれば、勝手に治りますよ?」

 と素っ気ない。


「そうかな?」

「そうですわ。ねえ、ハンス殿」


「っ!」と気まずそうなハンス。

「も、もう治ったよ」と勢いよく起き上がる。


「え、でも……」納得のいかないカミラ。

「ほ、ほら」と、ハンスはぎこちない笑顔を浮かべた。

 これ以上猿芝居は出来ないと悟ったようだ。



「まずは、お二人を紹介しますね」

 ラフィーナは一つ咳払いをすると、二人の紹介を始めた。

「こちらの女生徒は、カミラ・ブルックナー。

 わたしと同じレイベール学園の三年生です。

 薬草の調合スキルを所有しており、各種ポーションの製作を得意としております」


「あ、えっと。カミラ・ブルックナーです。よろしくね」

「ほう」

 俺はカミラを見やる。

 小柄で巨乳。メガネっ娘。属性大盛りだ。これでドジっ子属性があれば満点なのかも知れない。

 だが、医療関連者がドジっ子なのは、致命的に拙いのは分かる。

(少しその毛はあるみたいだけれど……)

 そのことは追求しないでおこう。


「その隣の男子生徒は、ハンス・ドンケル。

 彼もわたしやカミラと同じ学年です。

 弓術と索敵のスキルを有する優れた狩人です。

 ……少々破廉恥ですけどね」

 と、少しジト目で紹介するラフィーナ。


「よろしくな」と少し斜に構えた雰囲気。多分形から、入っているのだろう。

 いわゆる中二病だろうな。

(やはり、アイツと同類だな)

 まあ、嫌いじゃ無い。仲良くやっていけそうな気がする。


「そして、こちらの方が勇者であるユウト殿です。

 わたしとユウト殿はパートナーとして、魔物との戦いに赴きます。

 大変な旅路となるでしょうが、ご協力をお願いしたいのです」

 そうして、ラフィーナは二人に向かって深々と頭を下げるのだ。


 そんな彼女を見て、俺も意を決する。

 そっと兜を脱いだ。先ほど貰ったチョーカーのおかげで、顔を見せられる。

「笹倉優斗だ。こちらの言い方では、ユウト・ササクラかな」

 俺は名乗ると、会釈を浮かべた。


「勇者なんて、紹介されたけれど、右も左も分からない新参者だ。

 ラフィーナの協力だけでは厳しいものがある。どうか手を貸してくれないか」

 俺は頭を下げた。人に頼むのに頭を下げることに抵抗はない。

 気取って失敗するよりは遙かにマシなのは経験しているからだ。


(冒険、なんて簡単に一言で済むはずはないだろうからな)

 この先どんなことが起こるのか、そんなことサッパリ分からない。

 ただ、絶対大変なことが起こることは、容易に想像出来る。

 俺とラフィーナの目的を達成するためには、仲間となる存在がどうしても必要になるだろう。


 俺を見て、カミラとハンスは顔を見合わせた。

 この国では、勇者の地位はかなり高いみたいで、二人ともかなり驚いている。


「そ、そんな丁寧に。済みません」と恐縮するカミラ。

「ほう。オレたちの腕を見抜いているのか。あんたやるな」と不敵な笑みを浮かべるハンス。

 彼は前に歩み出ると、「いいぜ」片手を差し出した。

「ありがとう。助かるよ」俺は手を取り、ガッチリと握手を交わした。


「え。ええっと」カミラはラフィーナの顔を見やる。

「ユウト殿は、信頼出来る方だと思います」とラフィーナはカミラに向けて微笑む。「これからの旅が、厳しいと悟っているのですからね」


「あ、うん」

 カミラも俺の前に歩み出ると、勢いよく頭を下げた。

「あたし、カミラ・ブルックナーです。よろしくお願いします」

「こちらこそ頼むよ」

 俺は会釈して、大きく頷いた。


「これで四人か……」

 仲間が二人増えたのは、素直に嬉しい。

 役割としては、前衛の俺と後方支援のハンス。

 医薬品を扱うカミラは補佐役、聖魔法を扱えるラフィーナが臨機応変に対応する、そんな感じだろか。

 何処かで訓練や模擬戦をして確かめないと分からないが、一応は戦えるんじゃないだろうか。


(一人多いけれど、前衛、中衛、後方支援はお約束だからな)

 俺も白い悪魔、と呼ばれるほど強くならなくてはならないだろう。

(まあ、俺は白よりも黒の方が好きなんだけどなあ)

 俺は無骨な鋼の鎧をジロジロと見やる。もう少し特別感が有っても良いんじゃないだろうか?

 後でラフィーナに相談してみるとしよう。


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