第16話 これからのこと
元の世界から帰還した。玲奈と会ってきたので時間を食った。
元の世界との時間のズレ、それが大きかった。
この世界の時間にして丸二日。
ラフィーナは絶対に怒っているだろう。
だが、収穫はあった。
俺の場合、魂だけならば元の世界に帰られるのは実証済みだ。
残る問題は、玲奈を連れて帰るには、相当な強さの魔力が必要というぐらいか。
それも、俺と玲奈の実力が向上すれば、どうにか出来るだろう。
ただ、その為にはこの世界の協力者の存在が必要不可欠だ。
ラフィーナやイケメン王子の協力が……。
イケメン王子に頼るのは、それはそれでどうなんだろう。
「……やはり、ラフィーナの機嫌を損ねるのは拙いな」
ならば、頼るのはラフィーナ一択だ。
とは言え、どこまでラフィーナに話そうか。
ラフィーナは、俺たちが元の世界への帰り方を知らないと言っていた。
王族だけが入れる秘蔵の書庫。
俺もあの女性の幽霊に出会わなければ、恐らく元の世界には帰られなかっただろう。
俺だって転送陣の細かい使い方なんて分からない。
上に乗ってカン助に手伝ってもらったからだ。
そのことをラフィーナに話せば、俺はやはり「特別」と思われるか。
元の世界に戻ったと「嘘をついている」と思われるか。
「証拠がいるのか……」
女性の幽霊のこと。もう一つの古い転送陣の存在。
それらの存在を納得させるには、ラフィーナを和風の神殿に連れて行かなければならないだろう。
「……面倒くさいな。
あそこへ行くのはかなり時間がかかるぞ」
俺の場合は空を飛んで一直線だったから、意外と短くてすんだのだ。
周囲は深い森。
歩いて行くのは相当時間がかかるだろう。
それと、ラフィーナが嘘をついていた場合。
彼女は、秘蔵の書庫になんて、入らなくても聖女関連の内容を知っていた場合。
俺の力が欲しいために嘘をつく可能性もあるんじゃないだろうか。
玲奈とイケメン王子たちの勲功を上回るには、相応のパートナーが必要になってくるだろうから。
「でもまあ、ソレは無いだろうな」
俺があの場所に現れたのは、偶然だからな。
もし、あの時ラフィーナに気づいてもらえなかったならば……。
「かなりゾッとするな」
恐らく消滅するか、悪霊になってしまうかのどちらだろうか。
ラフィーナも嘘をついてるかもしれない。
それはひとまず置いておくとしよう。
やはり素直に話した方が無難なのだろうか……。
だけど、素直に元の世界に戻れること。それを話した場合、
ラフィーナ以外の人間がどんな奴なのか分からないことである。
ラフィーナは、『協力者』だけど『権力者』ではない。
聖女に関連する情報は、王族が握っていると、ラフィーナも言っていたからだ。
ラフィーナは貴族であり、その『権力者』にコネがあるみたいだ。
彼女に素直に話しても、その情報を『権力者』に告げられてしまうかもしれない。
そうなれば、その『権力者』は、自分に都合が悪いと考えれば、何をしでかすか知れたモノじゃない。
何しろ俺の存在を確かめもしないで、ほったらかしなことに腹が立つ。
勝手に召喚しておいて、死にかけたのだ。
それはあまりにも酷い話である。
ラフィーナは信用するとして、その他の人間まで信じるのは流石に危険だろう。
もし、黒幕でもいるのなら、教えないことが切り札になるかもしれないのだから。
「よし。それじゃ適当に嘘を混ぜておくか」
ラフィーナに正直に話しても、俺にメリットは無さそうだ。
それにこの問題は正直分からない。情報が無いからだ。
ならば深く考えるだけ無駄というものだ。
遺跡には転送陣が有ったけれど、使えなかった。
無理に使ったらとんでもない目に遭ってしまい、時間だけが過ぎてしまった。
コレで行こう。
直ぐさまラフィーナの部屋へと向かう。
ドアを素通り。ふわっとする良い匂い。
お約束の展開か?。
驚くラフィーナは、胸元をサッと隠すだが直ぐに仁王立ちになった。
残念ながら、着替えは終わっていたようだ。
「あら、残念でしたね」とラフィーナ。和やかな微笑み。
だけど眉がピクピクと小刻みに動いている。
これは絶対に怒っている。
「今までどちらにいらしたのですか?」
「古い遺跡。探すのに手間取った」
俺は、ここは正直に話す。
全て嘘をつくと簡単にボロが出てしまう。
これは玲奈とのやり取りで得た経験から来るものだ。
「ああ。南東の遺跡に向かわれたのですか。
あそこは熱心な信徒の方でもおいそれとは行けない場所にありますからね。
でも、どうしてその様な場所へ向かわれたのですか?」
「そこにもう一つ転送陣が在ると、玲奈が言っていたからだ。もし使えたら元の世界に帰れるかもしれないと、考えたんだよ」
「では、その転送陣はどうしました?」ラフィーナの口調は少しきつめだ。
「転送陣は、(カン助の力を借りなければ)俺独りの力では使えなかったよ」
「そうでしょうね。
あそこの転送陣は壊れているために、破棄されているからです」
「無理に使ったら飛ばされかけて、危うく成仏するところだったんだ。
それで時間だけ過ぎてしまったんだ」
俺は戯けるように肩をすくめてみせた。
「全く。無茶をしますね」とラフィーナあきれ顔となる。
少し安心したように見える。
「もう良いですよ。またわたしに会いに来てくれただけでも嬉しいですから」
と、ラフィーナは微笑む。柔らかな笑顔。
これは誰でもコロッと逝く笑顔だな。
「では、わたしのことなのですが……」ラフィーナの笑顔が消える。
「さて、次は我が家の事情についてなのですが……」どうにも歯切れが悪い。
「せっかく王都にある下屋敷お招きして、父上にお会いして欲しかったのです。
ですが、それは叶わなくなりました」
「へえ、そうなんだ」俺は軽く肯いた。俺というパートナーの紹介をしたいみたいだ。
まあ特段会わなくても問題ないと思うけれどな。
ラフィーナは律儀な性格しているな、と暢気に考えた。
「父上には、ユウト様の勇者認定を正式に認めてくださいますように、王都の教会に掛け合って貰うつもりだったのです」
「ああ、そうだったな。
俺は勇者としては、君以外には認められていないんだったな」
別に自由に戦っても問題ないと思うけれどな。
「はい。これからの魔物にたいする任務に支障が生じます。それと……」少し言い淀む。
「武功を挙げても、教会からは認められにくいのです」
「ああ」そうだった。
ラフィーナは偉大な聖女だと認められて、イケメン王子と結婚するのが目的だったっけ。
「それに、王国からの正式な後方支援も受けづらくなりますからね」
「へえ。自称勇者だと待遇が違ってくるのか」
正規軍と義勇軍との違いみたいなものらしい。
「はい。魔物との戦いは、武力だけでは勝ち抜けませんから」
「この城の人間に、直接頼むのはどうなんだい?」
「それにもツテが必要ですから」
「じゃあ、他に方法はないのか……」
「いいえ、ありますよ。ユウト様の勇者認定。
それをレイベール学園にまで行かなくてはならなくなりましたが」
「ここから遠いのかい?」
「はい。馬車で一週間ほどかかります」ラフィーナの顔色が曇る。
「君には、そんなに時間が無いのか」
「そうですね」ラフィーナは目を伏せる。
「このままでは、北方での大規模な反撃に参加出来なくなってしまいますから」
「そこで武功を挙げる、か……」
「はい。ユウト様ならば、必ずや」
「そんなに上手くいくのかい?」
ラフィーナは、俺を買いかぶっているみたいだ。
俺としては、地道に強くなってからの方が成功しやすい、と思うんだけれどな。
万全ではなかったが、あの黒い獣みたいなヤツにも苦戦したんだ。
流石にイケイケで戦うのは違うだろう。
「正式に対魔物との戦いとなれば、王国の近衛騎士団と行動を共に出来るのです。
選りすぐりの騎士で編成された近衛騎士団は強力です。
強い味方がいれば、それだけ自由に戦えますからね」と言う。
「あれ? ラフィーナは実戦経験があるのかい?」
彼女は、軍隊の知識を持っているみたいだ。
「大規模な戦いではありません。それなりの規模の実地訓練でした」
「へえ。それを教えてくれるのが……」
「はい。勇者と聖女の育成機関であるレイベール学園なのです」
学園長が、教会の大司祭を兼ねている。
王国でも指折りの権力者と彼女は言う。
その老人に認められれば、国王とて無下には出来ない。
聖女関連は、教会が絡んでくるからだろう。
「なるほどねえ」
俺はそれを聞いて興味を覚えた。是非とも見学してみたいものだ
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