第15話 玲奈視点・優兄がモテない理由

 優兄の魂の消滅と、アタシが元の世界に戻れない、という最悪の未来はどうにか回避出来たみたいね。


 後は元の世界に戻る『確実』な方法を探るだけ。

 その目処も朧気ながらも見つかったのだから、今は良しとしよう。


 さてと……。

 優兄は、憎しみや怒りという負の感情を、大して引きずらない性格だ。

 良いように言えば前向き、ポジティブ。

 悪いように言えば、宵越しの金はもたぬ、出たとこ勝負、という考えだ。


 優兄の一番の良いところ。

 それは誰かの為に頑張れること、そんな素敵な気質の持ち主なのだ。

 気さくな性格と社交性もある優兄が、何故モテないのか。それには理由がある。


 優兄がモテない理由。

 一つ、スケベな所とオタクな所を隠さない。

 同級生の女子が教室にいても、男友だちと平気でエッチな話やアニメの話をしてしまうこと。


 二つ目、親友の盛久君とよく一緒に居ることだ。

 神代学園でも人気上位なイケメンの友人といると、どうしても見比べられてしまう。

 話す内容に大差はなくても、イケメン補正が掛かってしまうのだ。

 盛久君の引き立て役としてね。女子は怖い生き物なのよ。


 それと同時に学園でも人気下位の友人と連れている。

 しかも絵に描いたようなオタクである。

 ただ、話してみると気さくな性格で、悪い人ではないのだけれど……。

 話す内容もその子と同じなのだけれど、どうしても引っ張られてしまうのよ。

 悪い方向にね。

 つまり、二つのマイナス補正が掛かってしまっているのだ。


 最後の三つ目。優兄の見た目は決して悪くない。だけどファッションセンスが無いのだ。

 着ている服は、ユニクロの黒だけ。

 これはまあ、良いでしょう。

 だけど、他の小物は、オタク趣味が出過ぎている。

 友人たちと駅の待ち合わせで、銀の指輪と鎖を付けて、ジョジョ立ちをしているのを見かけると、アタシでも絶対に近寄りたくない。


 と、以上これら三つの駄目ポイントが足を引っ張っている。

 だから優兄はモテない。


 優兄の本質を知ってる女生徒も確かにいる。僅かな人数なのだけどね……。

 しかし、アタシは優兄に、そんなこと教えない!



 ところが、である。

 異世界では、優兄のマイナスポイントが減っているのよ。

 オタクなんて、理解出来ないし、ファッションセンスは必要ない。

 イケメンな誰かさんに比べられて引き立て役にされる所か、逆に大活躍すれば、「救国の英雄」として引き立てられる存在なのだ。

(優兄が、活躍するのは拙い……)


 聖女と勇者。

 それぞれ美男美女でないとなれないのか、というくらい顔面偏差値が高い。

 しかも、国を救うという使命感があるため、心根は良い人ばかり。


 ロンちゃんを精霊獣として呼び出し「聖女の力」とやらに目覚め始めた結果、相手の魂の色。便宜上オーラと呼ぼうか。それが良く見えるようになったんだよね。

 誠実な人は、白。何やら企んでいそうな人は黒、と言う風に。


 この城の大人たちは、誰も彼もが何かを抱え込んでいるようで、白の人は少なくて、グレーや黒が多いのよ。

 政治の世界ってヤツなのかな?

 まあ大人たちは多かれ少なかれそういう人たちなのだろう。


 だけど、勇者や聖女に選ばれた少年少女は違う。

 みんな悪くてもグレーに近い白で、大抵は白に近い子ばかりだ。

(王子サマもそうだけど、国を救いたいという想いは本物みたいなんだよね)

 だから、彼らの頼み事を、全面的に否定出来ないのよ。


 聖女の一人ラフィーナ要注意人物だ。

 学園での成績は常に上位で性格もお淑やかだと教師からの評判は良いと聞いている。

 知的でグラマラスな金髪美少女。

 強敵だ。


 アタシの目から見ると、オーラの色は、白に近いグレー。

 温かみのあるオーラであり、善人なのに違いないのだろうけど、心に何かを抱えている子だと見た。

どことなく影を感じる美少女であるラフィーナ。

 人の良い優兄ならば、彼女の悲願を聞くと、その内折れるだろう。

 その子の力になりたいと考えるに違いない。


 と、同時に暢気に考えるだろう。『可愛い女の子と一緒に居られる』と。



 以前も、とあるハーレムアニメを見た感想で、

「そうか。俺には百人の運命の人が現れるかも知れないのか」

 と、阿呆な事を言っていたくらいだ。

 モテモテなハーレム展開なんて大喜びするに違いない。

 猫に木天蓼。いや、ちゅーる。ご褒美だ。


 優兄が、もしかしたら救国の英雄になるかもしれない。

 そうなれば女の子にモテないはずがない。


 まあ、正式に勇者として認知されるのかは、今のアタシには分からない。

アタシがヤキモキして、ジト目で見ても、何も気づかない。

 この鈍感男は……。


(だけど……)

 ここで、追い詰めたら絶対に逃げる。

 肝心な所でへたれるのが、優兄の悪い癖だ。

 純情と臆病が入り交じっている。

 モテたいというのが口癖の癖に、本気で女性を口説かないのが証左である。


(さて、どうしてやろうか)

 アタシがそう思案していると、優兄は


「あ、やべ誰か来たかも」といきなり横を向いた。

「誰も来ていないよ」アタシも釣られてそちらを向いた。特に何も感じられない。

「そうかな」と怪訝そうに、まだ見ている。


「気になるなら見てくれば?」

「いや、俺はこのまま帰るよ。

 誰かに見つかったのなら、後々面倒くさいから」

「でも、見られたのなら、相手の顔を知っておかなきゃね。

 優兄の姿が見えるなんて、凄いんじゃない?」

「うーん、まあ一理あるかもな」

「そうだよ。行ってきなよ」

「そんじゃコッソリ見てくるよ」

 優兄は、そろりと向こうへ去って行った。


「カン助ちゃん、おいで」主である優兄の後を付いていこうとする、カン助ちゃん。この子を呼び止めた。

「カー」とカン助ちゃんは、不思議そうな顔をしてアタシを見る。


 アタシも、ジッとカン助ちゃんを見やる。

 味方が、欲しい。特に優兄を監視出来る味方が。

 ならば、この子ならうってつけだ。


 優兄は、幽霊な分、精霊獣に与えられるだけの魔力が不足気味だ。

 呼び出さないと居続けられないのは、魔力不足が原因だろう。

 その証拠に、カン助ちゃんの姿は、優兄と同じく薄い。

 うちのロンちゃんと比べたら、一目瞭然だ。


「お腹、空いてるでしょ」アタシは黄金の魔力を見せた。

 カン助ちゃんは「ゴクリ」と喉を鳴らす。

「お食べ」アタシは魔力を、カン助ちゃんのクチバシの前に出してあげた。

 パクリと一口。

「カー」と嬉しそうに鳴いた。よほどお腹が空いていたらしく、夢中で魔力を吸い取る。


「よいよし。ゆっくりお食べ」とカン助ちゃんの食事を見守る。

「もっと欲しい?」

「カー」コクリと肯いた。

「あー、でもなあ」アタシは魔力を弱めた。

「カー」困った顔のカン助ちゃん。

「少し頼みたいことがあるの。聞いてくれる?」と、アタシの言葉に

「カー、カー」カン助ちゃんは、何度も肯いた。


 フフどうやら餌付けに成功したみたい。カン助ちゃんに懐かれたようだ。

 ただ、問題が無いわけでは無い。

 この子が、主である優兄と一緒で、女の子が好きでフラフラし易い性格なのかが分からないことだ。

 優兄と二人して、悪さに加担する可能性もあるのだから。


 まあここは信じるしかない、か

「キミに重要な任務を与えるわ」コホンと一つ咳払い。

「カー」

「優兄が、アタシに会いに来た時、それまでの行動を報告して欲しいのよ」

「カー」

「ああ、大丈夫。

 キミの考えは何となく分かるから、気にしなくて良いからね」

「カー」

 それと、これが一番重要な任務だ。

「優兄が、浮気しそうになったら、そのクチバシで突っついてあげなさい」

「カー」とカン助ちゃんは、頼もしい返事をする。

「よし。行ってらっしゃい」

「カー」



「やれやれ、誰も居なかった」丁度、優兄も戻って来た。

「あれ、カン助はっと」と、後ろを向く。

「カー」と、カン助ちゃんは、タイミング良くひょっこりと顔を覗かせる。

「ん。心配事が無くなって良かったじゃん」

 と、アタシは何事も無かったかのように振る舞う。


「まあ、そうだけどな」どことなく、まだ納得していないようだ。

「じゃあ、俺も戻る。二日も戻らなかったんだ、ラフィーナに何を言われるか分からんからな」「それじゃね」アタシはニコリと微笑む

「毎日会いに来てね?」と冗談半分、期待半分に言うと

「はあ? 偶に、時間が有ったらな」

 優兄は、どことなく照れたようにして、プイッと横を向いて、この場を去って行くのだった。



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