第12話 悪友に会いに行こう。

 祠から出ると、真っ赤な夕焼けが見えた。

 いつも見る風景に、俺は安堵のため息が零れる。

「召喚された時間と、そう変わらないみたいだな。お次は……」

 今、一番知りたいこと。

 それは何日の何時で、どれだけあちらの世界に居たことだ。


「スマホは動くみたいだな」

 俺は恐る恐るスマホの画面を見る。

「え、八月十二日? 今日の日付?」

 しかも……。

「午後六時十分?」

 確か、祠に入る前が六時少し前。

 あれから一時間も経っていないようだ。

「どういうことだ? 時間の流れが違うのか?」


「そう言えば……」

 玲奈も俺と会うのは、『何日か』ぶりと言っていた。

 こちらの世界と異世界とのタイムラグ。

 昔話の、「浦島太郎」みたいなものか。

 時間の流れ方が、全然違うようだ。


 どの程度の開きがあるのか、まだハッキリと分からない。

 ただし、次もこれほど時間の流れが違うとは言い切れないのだが……。


 玲奈の姿は見当たらない。彼女は異世界に召喚されてしまった。

 一緒に召喚陣を潜らなかったのだから、当然だろう。

 もし、今ここに玲奈も居たのなら、「凄い白昼夢を見ちゃった。でも生徒会の仕事が間に合って良かったね」と、笑い話で済ませたことだろう。


「笑い話じゃ無いんだよな。

 ああ、玲奈の親たちに、笑って誤魔化せる話じゃないんだ……」

 ただ、不幸中の幸いと言うべきか、こちらでは『まだ何も起きていない』と言えるのかも知れない。

 無事に連れ戻せたならば、そうなるのだ……。

「早いとこ、笑い話で済ませなきゃな」


 とにかく、今は行動に移すべきだ。

 俺は、直ぐに盛久に電話をかける。

「盛久、出てくれよ」

 通話時間がやたら長く感じる。今は一分一秒でも時間が惜しいのに。


「おう。なんだ」と暢気な盛久の声が聞こえてきた。

「お前、今何処に居る?」

「ん? 家の、お・手・つ・だ・い。帰ったら母さんに捕まってなあ。

 所でよ。優斗いま……」

「神代神社だな。直ぐ行くから、動くなよ」

 俺はスマホを切りつつ、神代神社へ向けて駆け出した。

              ★

 

 盛久は簡単に見つかった。

 アイツは今、神社の境内を渋々と掃き清めている最中である。

 俺の姿を、を見つけると、

「よう優斗、どうしたあ」と、気の抜けた声で話かけてきた。


「どうしたもこうしたもない。今直ぐに、俺の後について来てくれ」

「そりゃ生徒会の仕事か?」

「そんなもんじゃない。もっと大事なことなんだ。

 玲奈が大変なんだ、頼む」

 俺はガバッと勢いよく盛久に頭を下げた。

「お前も一緒に来て欲しいんだ」

 俺は真剣な眼差しで、盛久を見た。


 すると、盛久も顔色を変えて、俺を見つめた。

「なんだ、お前。また何かやらかしたのか」

「やらかしたんじゃない。とんでもない事に巻き込まれちまったんだ。

 とにかく、お前の力を貸して欲しいんだ」

「ふうん、いつもの痴話喧嘩じゃないみたいだな。良し、行ってやるよ」

「すまんっ」

 俺は盛久を急かすようにしながら、要石がある場所へ向かい、そして祠の奥へ連れて行ったのだった。

                 ★


 「祠の中へ行くのかよ」と、初め盛久は、文句をタラタラ言っていた。

 が、祠の奥がこんな風になっていることは、初めて知ったみたいで、途中からは文句も言わず懸命に、俺の後をついてきた。

 ――そして俺たちは、あの四角い部屋へたどり着いた。


「祠の奥に、まさかこんな場所があるなんてな……」

 盛久は、不思議な部屋に入ると、驚き顔でそう言った。

 俺は盛久に向き直る。

「良いか、俺がこれから言う話は、突拍子もないホラ話ではない。

 マジな話なんだ」

「あ、ああ」

 盛久もこの部屋の雰囲気を見て、大人しく俺を見る。


「玲奈は異世界に召喚されちまったんだ」俺は話を切り出した。

「は?」盛久は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

「アニメの見過ぎか? お前頭でも打ったんじゃね?

 流石に話しが飛びすぎだろうに」

「お前が信じないのも無理はない。だがな、」

 俺はそっと念じる。

「俺は無理矢理召喚されちまったおかげで、こんなしょうも無い力を手に入れちまったんだ」

 スウッと身体から、魂が抜けるのを理解出来た。

 グラリと倒れる俺の身体。


「お、おい優斗」

 盛久は、直ぐさま俺の身体に近寄る。

 俺の身体は、微かに息はしているが、脈拍も遅い。

 仮死状態である。

「しっかりしろ、おいっ。まさか、死んじまったのかよっ」

 盛久は、顔面蒼白となる


「良くみろ」

 魂だけとなった俺は、アイツの頭上から話しかけた。

「む、向こうが、透けて見える?? ゆ、幽霊?」

 俺の姿を見て、酷く狼狽する盛久。


「ああ。これが異世界召喚の結果だ」

 魂だけの俺の姿が、盛久にも見えるようだ。

 玲奈と同じく、盛久にも霊力、

 ――つまり魔力が有るみたいだ。


「わ、わわわっ」盛久はガバッと頭を下げる。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、悪霊退散、悪霊退散、迷わず成仏してくれえ」

 と、神主のせがれの癖に、祝詞を唱えずに、念仏を唱えるのだった。


「まだ殺すな」俺は、魂を身体の中に戻ると、盛久の肩に手を添えた。

「うわわ、生き返った」

「ああ。厳密にはまだ死んでいないからな」

「どどど、どいうことだ?」

「俺は魂だけ異世界に行けるようになったんだ」

「ははーん?」

 あまりの出来事に盛久の頭の上には、見えないクエスチョンマークが、盛大に飛び回っているに違いなかった。


◎読んでみて面白いと思っていただけたなら、フォロワーと応援を宜しくお願いします。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る