第11話 独りだけの帰還

 視界が晴れる。先ほどまで居たあの四角の部屋? 

 いや、違う。

 ふと、見慣れた人影に気づいた。

 俺の足下に転がる、俺の身体だ。


「まさか……。

 魂が抜けたんで腐った、とか言わないでくれよな」

 恐る恐る俺の身体に近寄る。

 ジッとしばらく観察する。

 と、胸は微かに上下していて、呼吸もしている。


「良かった。生きてるみたいだ。仮死状態ってやつかもな」

 先ずは身体に入ってみる。

 魂を、身体に重ねるように……。

「お、おお?」

 すると、離ればなれになっていたモノが一つになる感覚。

 全く違和感を感じない。さすが、本物の身体だ。

 先ずは、どうなったかの確認をする。

 身体をなで回してみたり、動いたり跳ねたりしてみた。特に怪我や不調を感じない。

「やれやれ」と、安堵のため息をつく。


「次は……」

 幽体離脱が出来るか、だ。

 これが、こちらの世界でも出来るか試してみたい。

 せっかく得た特技だ。何処で生きるか分からないからな。

「ふう」精神を集中する。

 身体から浮き出るような感覚。

「出来たか」

 どうやら成功したようだ。

 まあ、魂が抜けるという特技が、普通の生活で活かせるのか、と言えばどうなのだろう。


「まあ、いい。次はカン助だ」

 俺の精霊獣の名前を、心の中で念じる。

「カー」とカン助は勢いよく顕現した。


「よしよし、出てきてくれた」

 この世界でもカン助を呼び出せるようだ。

 精霊獣との心の絆は途切れていなかったようだ。


 カン助の様子が妙だ。

 何も無い壁の前で、グルグルと回る。

「お前の目には何かが映ってるのか……」

 あの時、黒い影にいち早く気づいて、ラフィーナを連れてきてくれたのは、カン助だ。

 コイツは何かを見通す不思議な目を持っているようだ。

 しばらくすると、カン助の動きが止まる。

「カー」と、カン助は自信たっぷりに鳴いたのだ。


「よし」

 俺はカン助の所に向かう。花咲かじいさんになった気分だ。



 壁を触る。

「あれ?」違和感。触った感触が無いのだ。

 揺らぐ。すると隠し通路が現れた。

 通路も天井が光を放っている。

「カン助、お手柄だな」俺が褒めると、

 カン助は「カー」と誇らしげに鳴いた。


 進んでみると、新たな祭壇を見つけた。

 もしかしたら、この場所が前回の召喚の儀式で呼び出された者、つまり聖女召喚された場所ではないだろうか。

 あの幽霊がいた部屋。

 そこと雰囲気が似ているような……。


 部屋の片側には、色々物が整然と置かれている。

 過去の聖女の物と思われる私物だろう。

 巫女装束と小刀、銅鏡と櫛、等々。

 驚くのは、どれもが新品同然にしか見えないことだ。

 綿埃どころか、塵一つ無いのはどういうことなんだろう?

 判らないが、これも聖女の力のせいなのかも知れない。


「おっと、先ずはあっちの確認が先だ」

 俺は、お目当てのモノ。中央にある魔方陣へ向かった。

「あっちが召喚陣ならば、こちらは転送陣なのか」

 理屈はサッパリ分からない。要は使えれば構わないのだ。


 ここの魔方陣の方がビッシリと文様が彫られていて、よほど頑丈そうに見える。

 魔方陣は鈍く輝いている。

 もし、ここが繋がっていて、俺でも使えるのならば……。


 先ずは俺独りで、魔方陣の中央に乗ってみる。

 魔方陣は、薄らと光を放つ。

 ――だが、機動しなかった。


「壊れているのか、それとも俺の力が足りないのか……」

 ならば……。

 先ほど得た幽体離脱。これで魔方陣の上に乗る。

 魔方陣の輝きが、少しだけ増したようだ。

 お次は……。


「カン助も!」俺の精霊獣の名を呼ぶ。

「カー!」カン助は力強く鳴いた。

 俺たちは、同時に魔方陣に乗る。

 すると、俺とカン助同時なら、魔方陣は輝きを取り戻した。


「どうやら、俺の実力不足みたいだな」

 魔方陣を起動させるには、相応の魔力が必要みたいだ。

 どうやって魔力を増加させるのか。

 こちらの世界での日常。普通の生活でどうにかなるとは思えない。

「むむ……」

 ここで一人で考えても何も変わらないだろう。

 誰かの知恵を借りる必要がある。

 向こうの世界では、ラフィーナがいる。

 彼女の方が、俺よりも遙かに魔法の知識がある。

 だが、手ぶらで戻るのは業腹だ。何らかの手掛かりが欲しいのだ。


「俺一人で駄目だ。魔法なんて、誰も知らない。だけど……」

こちらの世界でも、召喚の儀式の手掛かりを探してくれる味方。

 真っ先に思い浮かぶのは……。

「盛久、だな」

 アイツは未来の神主だ。

 俺の知らない情報を知っている可能性は高い。

 俺は盛久を探すために、外へ向かった。

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