巷説 月下三愚人
赤葉 小緑
第1話 月夜にて
「火の用心!」カチカチ。
『
「今夜はちいと、冷えるな」
老人は、
「あいや、
奥の作業間から娘のお
「ふざけんじゃねえ。きれいなお月さんが出てるじゃねえか。ちょっくら河原で月見だ」
杖を突きながら立ちあがる。
「
口の悪い娘だ。
「なんだって? 出戻りがなんだって!」
「聞こえてやがる……。なんでもねえよ。それじゃあ行ってくらあ」
迎えの家の屋根の上に月が見えた。その
河原に来ると、なじみの
「おや、
蕎麦屋の親父が、老人を見つけて蕎麦をゆでにかかる。老人は、この界隈では『万字』と名乗っている。
「おう、久しぶりだな。娘が出戻りやがって、ちょっと家がごたごたしてな。やっと落ち着いたんで、月見がてら出てきたってとこよ」
「さようで、そいつは難儀でございましたな。おつかれさんで。ゆっくりしていって、おくんなせえ。へい、お待ち」
蕎麦屋は、どんぶりを両手で持って万字に差し出す。
「今夜のお月さんは、いつもより明るいな」
そう言って、万字はどんぶりを持ち、足元を見ながら河原の斜面に腰を下ろした。
夜泣き蕎麦屋は、屋台を一人で
「万字の旦那、なにやら町の方から
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