勇者の知識を活かして
ギルドを出ると、さっそくAランク冒険者たちが行動を起こしているのが見えた。
二人組を作って、道行く人々に聞き込み調査をしているようだな。
しかも驚いたことに、さっき俺をなじってきたDランク冒険者たちもいる。
先輩たちに少しでも媚を売ろうと、同じように聞き込み調査をしているんだろうな。
「あっれ~、上位ランクなのに何もしてねえおっさんがいるぞ~?」
「あいつ本当にAランク以上なのかぁぁぁぁ~~~?」
「不正してのし上がったんじゃねえのぉぉお~~?」
このような嫌味を大声で言われたが、まあ取り合うつもりは毛頭ない。
しょうもない悪口で心乱されるほど、若い感性なんぞ持っちゃいないんでね。
「あ、あの二人は……!」
一方でユキナはカチンときている様子だったので、それは俺のほうで
こんなところで言い争いなどしている場合ではない。
俺の予感が正しければ、最悪の瞬間は刻一刻と迫っているからな。
「……っと、ここか」
そして数分後。
地図上で目印のついた場所――すなわち、地下通路へと通じる扉に到着した。
無理やり開錠されている様子はなかったが、かといって中に侵入者がいないとは限らない。かつての童貞ムラマサも、闇魔法を用いて、扉の向こう側へとすり抜ける芸当を披露していた。
カチャ。
鍵を使って扉を開けると、中から湿った匂いが放たれてきた。
ここにはたしか水路も通っていたからな。臭うのはある程度仕方ないだろう。
――と。
「あ、あれ⁉ あれって……?」
ユキナがそう声を発したので、彼女の指差す方向に視線を凝らす。
なんとそこには……魔物の死骸が横たわっていた。
鍵を閉めてその地点に駆け寄っていくと、その死体がまだ新しいことまで伝わってくる。
「こ、これは……?」
この地下通路には定期的に魔物が出没することは、すでに俺も知っている。
現代ではその理由が知られていないが、大魔神の死体から放出される魔力が、魔物を生み出してるんだよな。
だから定期的に、冒険者たちが地下通路の魔物討伐を行っているはずだが――さっき掲示板を見た感じだと、そのような依頼は出されていなかった。
つまりは冒険者以外の人間が、この魔物を打ち倒したということになる。
「……ロア、しかもこの魔物を倒した人は相当強いっぽいね。剣の一振りだけで終わらせてる」
「はっ、おまえもそういうのがわかるようになってきたか」
屈んで魔物を観察しているユキナに対し、俺はうっすらと微笑みかける。
「なんにせよ、油断できねえ状況なのは事実だ。ここからは決して気を抜くなよ」
「は、はいっ!」
ここは後輩としてのつもりなのか、素直にそう返事するユキナだった。
★ ★ ★
「こりゃあ、やべえな……」
通路の先へ進むにつれ、一帯はだんだんと妖しい雰囲気になっていった。
壁面には等間隔で灯かりが設置されているのだが、その程度の光源では気休め程度にしかならない。
漆黒の霧が一面に広がり、各所では小さな“光の球”が浮かんでいる。大魔神の放出する魔力があまりに強すぎるゆえ、“光の球”として顕在化している形だろうな。
「な、なんて力……」
隣を歩くユキナも、若干声を震わせていた。
「ロ、ロアは二千年前、こんな化け物と戦ってたの?」
「はは、こんなんでビビってちゃやっていけねえぞ。目覚めたらきっと、もっと信じられない力を発揮する」
「う、嘘……」
顔面蒼白でそう呟くユキナ。
……なぜ《魔神再誕教団》が現代で暗躍しているのか、それがうっすらと見えてきたな。
現代の人間はとにかく弱体化している。
あのドラゴンゲーテをSランク扱いしているくらいだから、申し訳ないが、二千年前の冒険者とは天と地の差が開いているんだよな。
そのせいで、今は大魔神の魔力を抑え込める者がいない。
二千年前にムラマサが用意してくれた《封印の間》の力も、少しずつ弱まってきているからな。このままでは、死してなお魔力を放出し続ける大魔神の力に耐えられないだろう(おそらくさっきの震動も、溢れ出る大魔神の魔力に起因しているはずだ)。
この状態であればこそ、覚醒した大魔神の力は文字通り途方もないはず。
かつて帝国全土に絶望をもたらした時のように――現代の人々を大殺戮に至らしめることも容易だろう。
「大丈夫だ、心配するな」
俺の裾をぎゅっと握り締めるユキナに、俺は極力優しい声で語りかける。
「おまえはムラマサの力を手に入れたんだ。あいつの力は二千年前でも強者扱いされてたし、今のユキナなら大魔神とも渡り合えるはずさ」
「う、うん……。ありがとう」
少しだけほっとしたのか、ややぎこちないものの、天使の笑みを浮かべるユキナだった。
そして、それから二十分後。
俺たちはついに、かつて大魔神と戦った大広間の近辺へと到着した。
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