納得いかない若造たち

 帝都ローディアス。

 そこはルーマス村から辻馬車で三時間ほどの距離にある。


 レンガ造りの瀟洒しょうしゃな街並みが視界いっぱいに広がり、道行く人々もルーマス村に比べて非常に多い。


 昼下がりの今は、特に飲食店のかき入れ時なんだろうな。

 店員と思わしき人々がひっきりなしに大声をあげ、一生懸命に自分の店へ客を引き込もうとしている。


 ルーマス村の静かな雰囲気ももちろんいいが、この賑やかな街並みも嫌いじゃない。

 特に二千年前は、いくら帝都といえどもこんなに栄えてなかったしな。


「うう……。久しぶりに来ると緊張するね」

 ユキナは自身の両肩を抱きながらそう言った。

「それで、なんだっけ。帝都支部のギルドに集まればいいんだっけ」


「そうだ。そこにAランク以上の冒険者たちが集まっているらしい」


 わざわざ高ランクの冒険者のみを募集したのは、おそらくムラマサの屋敷で起きていた事件に起因しているんだろう。


 あのときはAランクのミユルでさえ拘束されてしまっていたからな。

 となれば考えるまでもなく、Bランク以下の実力では歯が立たない。

 といってSランクの冒険者は帝国全体でもそうそう存在しないため――こうして、Aランク以上の冒険者が呼びかけられたんだろう。


「でも、ロアはいいの? このままだと私たちのランクがバレちゃうと思うけど……」


「まあ……そうだな。あんまり気は乗らねえが……」


 ため息まじりに応じる俺。


「まあ仕方ないだろ。さすがに《魔神再誕教団》の連中は放っておけないしな」


 あとはもうひとつ、“ここが帝都だから”というのもある。


 今はもう完全にルーマス村が気に入っているので、ここから帝都に移住するつもりはない。

 要は一度限りの人間関係だから、そんなに面倒事にはならないだろう――ということだ。


 そんなこんなで、俺たちは見慣れた冒険者ギルドに到着。


 扉を開けると案の定、見知った冒険者たちにじろじろと視線を向けられた。


 「…………」


 若干の居づらさはあるが、まあ気にするほどでもない。


 もともと俺はCランク冒険者。

 ベルフのように脚光を浴びる存在ではないが、俺と同年代のCランク冒険者は大勢いるからな。妙に突っかかれる恐れはない。


 ――が。


「おい、あいつ……」

「いったい何しにきたんだよ、使えないおっさんのくせして……」

「つーか年齢あべこべすぎんだろ。マジきもい」


 やはり一部には、俺を良く思わない連中もいるらしいな。


 二人の若造どもが、俺を見てはヒソヒソ話を繰り返している。名前までは知らないものの、以前ベルフと飲みまわっていた男だったはずだ。


 ……当時から急な出世でも果たしていなければ、こいつらのランクはD。


 今回の依頼には参加できないはずだが、たぶんAランク冒険者たちの顔を拝みにきたってことだろうな。若い冒険者たちにとって、上位ランクの先輩は憧れの対象だし。


「こほん。これで全員か」


 と。

 帝都支部の中年ギルドマスター――名をたしかシルクといったはずだ――が咳払いをして話を切り出した。


「あまり外に漏らせない情報ゆえ、場所を移したい。ついてこい」


 そう言って身を翻すシルクに対し、

「お、おい! ちょっと待てよ!」

 と呼びかける者がいた。


 さっきまで俺たちの噂話をしていた若造どもだ。


「ちゃんと見たかギルドマスター! そこにいるのはロアルド・サーベントとユキナ・エミフォートじゃねえか! Aランク以上の冒険者しか参加できねえ依頼じゃなかったのか!」


「はあ……?」

 シルクがなかばうんざりした様子で応じる。

「世間を知らねえガキがほざくな。今ここにいるBランク以下の冒険者はな、おまえらだけなんだよ」


「な、なんだって……?」

「そいつらのランクがA以上……!?」


 若造どもの表情が凍り付く。


 この場に集まっていたAランク以上の冒険者たちもまた、やや驚いたような表情を俺に向けているな。

 もとはCランクだった人間が、短期間で急な出世を遂げたわけだし――これ自体は当然の反応だろう。


 だが若造たちのように、怒りと侮蔑のこもった表情を向けたりはしてこない。

 Aランク以上にまでのぼりつめるには、やはり精神的に熟しているかどうかも重要なポイントだからな。


「あ、ありえない! 嘘だ! なにか不正したに決まってる!」

「そんな奴を昇格させるくらいなら、ベルフさんをどうにしかしろよ!」


「……黙れ」


 どおっ! と。


 シルクが睨んだだけで、若造たちは

「うっ…………」

 と呻いて後退した。


 ……さすがはシルクだな。右腕を負傷したことで一線からは引いているが、さすがは凄腕の冒険者なだけある。


「……ベルフだって、Cランクになる前はああじゃなかったのによ」


 シルクは物憂げにそう呟くと、一瞬だけ俺に視線を向け――そしてその後、全体に向けて言った。


「ついてこい。おまえたちにしかできない話がある」


 そう言われてシルクについていく最中にも、俺は若造どもから怒りの視線が向けられているのを感じ取っていた。

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