冴えないおっさんの無自覚無双

 それから二週間。


「ゴァァァァァァァァアアアッ!」


 耳をつんざく咆哮をあげて突進してくるAランクモンスター――シルバーデスタイガーの牙を、俺は剣で軽く受け止める。


「ウガ? ガガガガガガガガ……!」


 そのまま一生懸命に牙を押しやってくるが、はっきり言って手ぬるいにも程がある。


「こんなのがAランク指定とはな……。やっぱり二千年前と比べて劣化してそうだ」


「ガー! ガー!」


 なおも突っかかってくるシルバーデスタイガーに、俺は容赦のない一撃を見舞う。


 ――――轟!

 抜刀しながらシルバーデスタイガーを斬りつけると、たったそれだけで周囲に激しい大轟音が響きわたった。

 一帯の木々もまた、激しく揺れはじめている。


「グァ…………」


 あんなに暴れまわっていたシルバーデスタイガーは、たったこの剣撃だけでその場に崩れ落ちた。


「よし……」


 勇者だった頃の勘も、少しずつ戻ってきてるっぽいな。

 ユキナがいるから全力を出せるという点も、きっと勘を取り戻すのに一役買っている。


 そして。


「グァアアアアアアアアアア!」

「ギャァァァアアアアアアア!」


 また別のところでは、ユキナがCランクモンスターの群れ――シルバータイガーを水魔法で蹂躙していた。さすがはムラマサから魔法を受け継いだだけあって、とんでもない力を使いこなしているな。


 ドォォォォォオオオ!

 ドォォォォオオ!


 荒れ狂う水流に奔流され、シルバータイガーたちはなすすべもなくダメージを受け続けている。



 ――フェルタ森林にて、シルバーデスタイガーとその子どもたちが暴れている――

 ――近くの村が危険に晒されているため、至急討伐願いたい――



 そんな依頼を受けたのは、つい今朝のことだ。

 ルーマス村のギルドマスターが、周囲に気取られぬよう、こっそりと俺にそう告げてきたのである。


 Aランクモンスターとなれば、本来は他のパーティーとも手を組んで倒すのが定石。

 だから他の冒険者たちが集まるまでは、ギルド内で待機していてほしいと頼まれた。


 とはいえ、そんなことをしていたのでは被害が大きくなってしまうからな。そしてなによりも……俺は周囲に自分の実力を知られたくない。


 Sランクモンスターたるドラゴンゲーテさえ大したことなかったし、ここは単独で戦わせてほしいと申し入れた。


 面倒な話には違いないので、ギルドマスターには申し訳ないけどな。

 だがホワイトデスタイガーは凶暴な魔物だ。たとえ勝てなくても、被害が大きくなる前の足止めだけでもさせてほしいと頼み込み、ようやくギルドマスターも首を縦に振ってくれたのである。


 結果――。

 足止めどころか、無事に討伐まで至ったようだな。


 優秀な素材になりそうなので、もちろん剥ぎ取っておくことも忘れない。


 と。


「よし、ここだな!」

「聞いたところだと、今回はホワイトデスタイガーの変異種だと聞いている! 通常のホワイトデスタイガーよりも数段恐ろしいゆえ、各自警戒を怠るな!」

「「お、おおおおおおおお!」」


 なにやら背後から気合たっぷりの声が聞こえてきたので、俺は思わず肩を竦ませた。


 そのままユキナに近寄り、小声で話しかける。


「もう剥ぎ取り終わったな。とっとと撤収するぞ」


「おっけ」


 俺の気持ちを悟ったか、ユキナが了解の意思を示す。

 戦闘時での相性の良さも去ることながら、こうしたコミュニケーションの取りやすさも、ユキナとバディを組んで助かるところだった。


★  ★  ★



「ほれ。ホワイトデスタイガーの素材だ」


「……はは、本当にお二人で倒したんですね。凄すぎる」


 その後。

 ルーマス村に辿り着いた俺たちは、依頼達成報告を兼ねて、ホワイトデスタイガーの素材をギルドマスターに提示していた。


 もちろん周囲に聞かれては困るので、応接室でだけどな。


「はい、たしかに承りました。……もしギルドにS以上のランクがあるのだとしたら、それはもう至急ロアルド殿が昇格しないといけませんね」


「いやいや、そういうのはいいですから」


「知らないのですか? すでにギルド内では、大きな噂が立ち始めているのですよ」


「噂…………?」


「はい。高難易度のモンスターを倒し続け、多くの人々を救っているにも関わらず、それを周囲にひけらかすこともない。かの武神様のようであると……そんな噂がたちのぼっておりまして」


「…………」


「そういえば、最近ロアルドっていう名前の冒険者を魔法掲示板で見かけますしね。つまりこれは、武神様の再来――」


「ユ、ユキナ。帰るぞ」


 これ以上話が厄介なことになる前に、俺はそそくさと部屋から退室するのだった。

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