おっぱい三昧スローライフ
二人で温泉を堪能した後は、ルーマス村の宿に泊まることになった。
そういえば俺たち、家らしき家も持ち合わせていないもんな。ここルーマス村で過ごすかどうかは別としても、家がないのでは不便もいいところだ。早く定住地を見つけて、そこに家も作っておきたいよな。
そしてその場合には――この女もついてくるのだろうか。
「すや……すや……」
ユキナ・エミフォートは、ダブルベッドで俺と同じ毛布を被っていた。
こんなに若い女が俺と一緒にいるなんて、今でも到底信じられないけどな。
けれど、もうそんな弱腰にはならないと決めたんだ。俺のその“かっこつけ”が、もしかしたらユキナを傷つけていたのかもしれないのだから。
「…………」
そんな思索を巡らせつつ、俺はベッドの脇に置いておいた魔法写真を手に取る。
ザバル、ムラマサ……。
他にも懐かしい面々が沢山並んでいる静止画を見るだけで、込み上げてくるものがある。
二千年もの眠りから目覚めた時、まず感じたのは虚無だった。
まったく知らない世界。まったく知らない価値観。まったく知らない分化。
大魔神も最期にひどい仕打ちをしてくれたもんだと思った。
だから二度目の人生では、無駄に目立つことがないように決めた。
俺はたしかにこの世界を救ったかもしれないが、本当はもう死んでるはずの人間だ。
そんな男が無駄に出しゃばったって、現代の人々を困らせるだけでしかない。
俺も若い時そうだったからよくわかるが、古い知識を垂れ流すだけのおっさんなど鬱陶しさしかない。
けれど――。
平和になったはずの現代でも、まだよくわからない組織が暗躍している。
ムラマサが極秘に研究していた「移魂の禁法」を用いて死者を復活させ、大魔神の復活を目論んでいる《魔神再誕教団》。
かつて世界を破滅に陥れようとした大魔神を、あいつらはなんと蘇らせようとしている。
そしてそのために、今でも多くの人々が犠牲になっている。
――それなら、俺がまた一肌脱いでみるのも一興だろう。
――二千年前すら使ったことのない奥の手も、まだ残っていることだしな。
諦めちまった今の人生。
もう少しだけでも、花を咲かせてみるか……。
「つん」
そんなふうに考え込んでいると、ふいにユキナが俺の頬を突っついてきた。
「なんだユキナ。起きてたのか」
「……うん。ひとりで考え事してたから、そっとしといたほうがいいかなって」
温泉の一件でだいぶ打ち解けたからか、ユキナの口調にも大きな変化が生じている。
いくら歳が離れているとはいっても、恋人関係なのに丁寧語を使われちゃ違和感しかないからな。俺から砕けた口調を提案した形である。
「……ロアも一人で抱えてないで、なにかあったらいつでも言ってよ? 一人で悩むの、私やだな」
「はは、安心しろや。悩んでたわけじゃねえ」
そう言いつつ、俺は魔法写真を元置いていた位置に戻す。
「ただ、《魔神再誕教団》のことは放っておけねえって思ってよ。あいつの恐ろしさは……俺が一番よくわかってるつもりだしな」
「…………」
「だから、明日からは《魔神再誕教団》の動向を探っていこう。もちろん“隠れSランク冒険者”である以上、あまり目立った行動はでき――むぐ」
発言が途中で遮られたのは、ユキナがふいに俺の唇に人差し指を当ててきたからだ。
「おい、なにをする」
「だめだめ。ロアは頑張りすぎなの。だからたまには、こうして何もしないでぱーって休むのが大事なの」
「……だからって、あの教団は放っておけねえだろ」
「それはもちろん。だから動向を追いつつも……ロアにはもっと休んでほしいんだ。あまり自分を犠牲にしすぎないでほしい。それが私からの願い」
はっとした。
そういえばザバルもムラマサも、似たようなことを言ってたよな。
世界平和もいいが、本当はもっと俺と酒を飲みかわしたかったって。
「だから私からロアへのリクエスト。……頑張りすぎずに、ちゃんとスローライフを満喫する! あと私のおっぱいもちゃんと触る! これを意識してほしい」
「はは、なんだそりゃ。二つ目は意味わかんねえだろ」
「え……? ロアは私のおっぱい、興味ないの?」
おい、その聞き方はずるいだろ。
「何度も言わせるな。おっさんをからかうんじゃねえ」
「だったら証明してよ」
むにゅ、っと。
二つの柔らかい膨らみを堪能すると、ユキナが嬉しそうに俺に抱きつく。
――――今日は当分眠れそうになかった。
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